第22話俺が貴族と会ったならばっ! 豚ver
「じゃあ俺はこれとこれとこれを買おうかな。お会計頼むぜ。」
「分かったわん。あたしもこんなに可愛い子をコーディネートすることなんてなかったからいい経験になっわよん。」
「ん…楽しかった。」
俺たちはあのあともティアのファッションショーを楽しんでしまい、収集がつかなくなったので、気に入った服を数着選んで買うことにした。あのままなら俺は死んでただろう。出血死でね。
「いやぁ来てよかったぜ。最初店に入ったときは化け物が奥から出てきたもんだからこっちはひやひやしたもんだ。」
「化け物!?ひどいわん!あたし泣いちゃう!しくしく」
「可愛くないんだよ!?筋肉ムキムキの男がしくしくなんて泣き方するかよぉ!?」
やっぱり化け物じゃないか!?
「それじゃあもううちには来てくれないのかしらん…?」
「それは…いや来るけどさ……」
ラブリィ☆エンジェルなんて名前の店だがほんとに品揃えはすごい。色んな服がある。チャイナ服があるなんて思いもしなかった…今度ティアに秘密で買っておこう……
「また来てくれるのねん!?嬉しいわ!!」
「うるさい!こっちに走ってくるな!!お前のために来るわけじゃないぞ!?はやく会計を済ませてくれ!」
「んもぅ!いけずなんだから!」
そろそろやめとけよお前?死ぬぞ?俺が。ストレスで。
「ん…あるじ。フリコをいじめたら……めっ!」
ぐわぁぁっ!?あざとい!!この子なんてあざといんだ!?ヤバい貧血になりそう……
「大丈夫よティアちゃん。あたしは愛の鞭だと分かってるから!!」
「は?」
愛の鞭?愛なんてねえよ?あるとしたら哀だよ。哀しみの鞭だよ。
「えっと…これとこれとこれで…4200スールね。」
「分かった。」
4200スール……日本円で4万2千円か…まあ、ティアの服にかけるならやすいほうだよな!!いやむしろ無料に近いかもしれない!!
「お兄さん、意外とお金持ちで甲斐性があるのねん。どう?あたし?」バチンッッ!!
「どう?っていうのが彼女としてありかなしかで言うんなら無いからな!?ありえ無いからな!?帰るぞ!ティア!」
「……?」
だからそのウィンクやめろぉ!
…ドゴォ!!
おい…いま後ろの方で壁にぶち当たる音がしたぞ?明らかにウィンクで鳴っていい音じゃなかったぞ?…いや振り向かんよ?俺は絶対に振り向かないよ?
「またな、フリコ。今度は来たときは更に可愛い服を用意しておいてくれ。」
「もちろんよぉ!!それまでには客も一杯入る素敵な店にして見せるわん!!」
「ん…フリコ…頑張って。」
素敵な店っていうか…無敵な店だよな。こんな店長がいる店なんて強盗も借金取りも入ることなんて出来ないだろうよ…
●
ラブリィ☆エンジェルを出てしばらく歩いていると、周りの人々が通りすぎるたびに振り返る。
「うんうん…いい感じだな、ティア。」
「ん。」
実はティアにはさっき買った服のひとつを着てもらっている。ティアのイメージカラーに合わせた白色のワンピースだ。ひらひらしてて可愛いんだよこれが…
「じゃあまあ…ドラゴン見に行ってみるか。」
「ん…確か…コボリの森?」
「そうだったな。道はこのギルド証に登録してくれたみたいだから分かる。ほんと便利だよなこれ。どういう仕組みなんだろうか…」
この世界では魔法が発展していて、俺の世界では科学が発展しているというだけだが、その差は大きいんだろうなぁ…。まあ俺には魔法の才もあるからな。時期にいろんな魔法も使えるだろ。
それにしても……だ。
俺はたびたび索敵を発動させるようにしているのだが…服屋を出てからずっと赤いマーカーが後ろからついてきてるんだよな……
「ぐふふ……あの女の子……可愛いんだなぁ。おいシドー。あの子が僕は欲しいぞ!」
「は、かしこまりました。」
おいなんか不穏な言葉が聞こえたぞ?ぐふふなんて笑い方を本気でするやつ初めて見るんだが…
「あの…なにを言ってるんですか?お二人さん。この子は俺の奴隷なんで、貴方がたに渡すつもりはありませんよ?」
俺は後ろを振り返り、なにやらよからぬことを喋っていた二人を見てみる。
「ぐふ!?その子は奴隷なのか!?僕は見たことがないぞ!?どこの奴隷商館なのだ!?」
「ポルコ様、落ち着いてください。」
「うるさい!僕に命令をするな!!」
後ろを振り返ると、執事のようなスーツを着た男性とこれまた貴族感溢れる豚のような体型をした男が……いやあれ顔も豚だな…全身豚じゃないか!
「おい、そこの平民!ぼ、僕は伯爵家の長男のぽ、ポルコだ!そ、その奴隷を僕に売るんだな!」
「は?売る?そんなことありえませんよ?この子は大事な僕の奴隷ですから。」
ティアを売る?意味がわからない。この豚は一体なにを言ってるんだ?
「ただでとは言いません。ここに1億スールあります。」
「ぐふふ!平民のお前は初めて見ただろう!?こんな硬貨の束!これで満足だろう?さあ、はやくぼ、僕にその奴隷を寄越すんだな!」
「はぁ…ティア、俺の後ろにいろ。」
「ん…わかった。あるじ…大丈夫?」
「大丈夫だ、話をつけるから待っててくれ。…あの、何を言われても僕の気持ちは変わりませんよ?この子は売りません。僕の大切な奴隷ですから。」
「ぐふ!?ならその倍は出すぞ!!だから速くその奴隷を、よ、寄越すんだな!!」
「いい加減にしてくれませんか?この子はお金で買えるような安っぽい子ではありません。どこか別の奴隷商館で他の子を見つけてください。」
正直こいつの相手をすることさえ嫌な気分になる。ティアと同じ空気を吸うだけでも料金を払ってほしいもんだ。
「ぐ……ぐふ!?い、いいのか!?2億スールだぞ!?平民なんかには見ることすらできない金額のはずだぞ!?」
「申し訳ありませんが、奴隷の主人様。これ以上歯向かったら私も手をつけられません。ここで手を打ちませんか?」
「この子は…ティアは絶対に売りません。これはどれだけお金を積まれても変わりません。」
手をつけられないとか……じゃあ手がつけられる人を側近に置いとけよ。むしろこんな豚ならそれこそ首輪でもつけるべきじゃないか?
「ぐ、ぐふ!?いいのか!!後悔することにな、なるぞ!?」
「後悔?あぁ、こんな道を通らなければあなたに会いませんでしたもんね。」
「ぼ、僕は忠告したからな!僕の言うとおりにならないんなら、む、無理矢理にでも奪うんだな!おい!シドー!」
「はぁ…だから言いましたのに……奴隷の主人さん。もう止められませんよ。」
そう言って執事のような男は袖口からナイフを取り出してこっちを見つめる。
「やっぱりこうなるのか。会ってみたいもんだ…まともな貴族ってやつによ。」
「あるじ…ティアに……任せて?」
『身体強化(フィジカルバースト)』を使おうと体に力をいれた瞬間、ティアが後ろから話しかけてきた。
「いや、それはだめだ!危ないだろ!もしティアが負けたりしたら…」
「負けない…ここで…負けたら……あるじの背中を……守れない…!」
そう言うとティアは俺の前に立ち、執事の男を見つめ返した。
「ぐふ!?その子が相手をするのか!?おいシドー!!その奴隷を傷付けるなよ!?その奴隷を傷付けていいのは僕だけだ!!」
「おい!ティアを傷付けていいやつなんてこの世にいねぇぞ!!」
つい叫んでしまった。いまさっきまで敬語だったが今のは聞き捨てならねえ。
「ぐ、ぐふ!おいお前!どうせお前だってその奴隷を殴ったり蹴飛ばしてしてるんだろう!?よ、夜にはもっと酷いことをしてるは、はずだ!!」
「おい!いい加減に…っ!?……いや…もう俺はなにも言えねえよ。」
「ぐふっ観念したのか!!それでいいんだ!やっぱりお前もその奴隷を傷付けて遊んでたんだろう!?ぐふふ!考えることは同じじゃないか!」
…キレてる、俺はもう既にキレてるんだ。ここまでこけにされてキレないわけがない。でも俺はもうなにもしない。
……俺はな?
「……あるじを……ばかに……した…な?」
そうだよなぁ…当人の方がよっぽどムカつくよな。だからこれはお前の戦いだよな。俺はゆっくり見てるとするよ。
「ゆる……さない……ッ!!」
いつもは無表情の顔が怒気を孕んだ顔になっているティアがそこにいた。こんなところを見て俺がでしゃばれるわけがない。
「頼むぞ、ティア。」
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