第20話俺が服屋に行くならばっ!

「あ!駿河さん!」


「おう、おはよう、ノノさん。」


「ん…おはよう…ノノ…」


 やっとのことで順番が回ってきた。ギルドの受付ってこんなに長くなるもんなのか?


「はい!おはようございます!ティアさん!駿河さん!話は聞いてますよ!喧嘩の仲裁をしてくださったそうで!」


「あぁ、知ってたのか?そのへんに適当に寝かせたけど大丈夫か?」


「構いません、ギルドではそういうものには不干渉と定められてるんです。度が過ぎれば流石に対処しますが…」


 そうか、だからさっき暴れててもギルドの方からは何もなかったのか。それはそれでいいのか?


「ま、まあいいや。ていうかいつもこんなに人がいるもんなのか?それなら正直俺は来たくないぞ…むさ苦しいし……」


 周りは大概男だからな…むさいったらありゃしねえ……。


「いえ、今日から大討伐クエストというものが始まりまして。みなさん、それで急いでらっしゃるんですよ。」


「大討伐クエスト?なんだそれ?」


 どうやら受付に毎日あの人数が並ぶ訳じゃないようだ…よかった。俺ここくるのやめようかと思ったもん。いやほんとに。


「はい、大討伐クエストとはですね、大人数での討伐が義務付けられている依頼でして、今回はこの付近にあるコボリの森に現れたドラゴンを倒すというものになります。」


「ほぉ!ドラゴンか!」


 なんとぉ!これはすごい!定番中のド定番じゃあないか!ドラゴンってのはどんなゲームでもマンガでもかっこいいやつだしな!


「それは誰にでも受けることが出来るのか?」


「はい!Cランク以上の冒険者と組むことが出来るならどんなランクの方でも同行できます!駿河さんはCランクなので一人でいくことはできますが…流石にパーティーを組んだ方がいいと思います。」


 そりゃそうか、初心者がソロで行ったりすれば死ぬ可能性だってあるわけだ。それはヤバイよな。


「んー…まあ、俺にはティアがいるからな。パーティーは気が向いたら入るよ。な?ティア。」


「ん…あるじとティアなら……よゆう…ふんすー」


「だよなぁー。」


「ティアさんは戦えるんですか?正直戦闘が出来そうには見えませんが…」


「まあまあ、俺がティアの強さは保証するよ。」


「そ、そうですか…とりあえず、どうしますか?受注しますか?」


「んー…まあそうだな。頼む。ちなみにそれって集合時間とかいろいろ決まってるのか?」


「いえ…この大人数なので、流石に全員を集めることは出来ないから自由に行けばいいはずです。」


「そうか!じゃあ頼む!それに加えてノノさんに聞きたいことがあったんだ。」


「はい。受注しときますね。聞きたいことですか?私に答えられることならなんでも構いませんが。」


「おう、実はだな…ティアの服を買いたいんだが、どこかいい店はないもんかね?俺は最近この王都に来たからまだ右も左も分からんのだ。」


 もうちょっと町を散策するべきだったんだろうけど…王都に来たらまず王様に挨拶とかだったからな…グラノ国王さん元気かなー。


「奴隷に…服ですか?いえ、構わないんですが…駿河さんは優しいのですね。ティアさんも、奴隷というか…娘みたいな感じですもんね。」


「ん…ティア……娘?」


「いやいや…俺とティアそんな年離れてないって。10歳も離れてないのに娘なわけないだろ……そんな老けて見えるか?」


「あ!いえ…ただ今もティアさんの頭を撫で続けてるところがなんというか……親バカなお父さんみたいな感じで……」


「は!無意識で触っていた……!?あまりの触り心地のよさについ…ていうか親バカ!?なんか辛辣なんですけど!?」


「ん…あるじ…バカ?」


「うんティア、そこだけ取り出すのやめような?」


 ただの悪口みたいになってんぞ!


「あ、服屋の場所でしたっけ?そうですね…噴水のある広場って分かります?」


「噴水の広場…あぁ、わかるわかる。確か行ったことがあるわ。」


 奴隷商館を探そうかどうしようかと迷っているときに、フライダが俺を見つけて奴隷を紹介してくれた場所に確か噴水があったな。


「はい、そこの東側の通路が服屋が何店かあるので、よかったらそこを見てみてください!」


「そうか、わかった!ありがとな!なんか俺にできることがあったら言ってくれ!出来ることならなんでもするからさ!」


 いやありがたい!これでティアの服を選べる!ノノさんには感謝だな!


「な、なんでもですか!?それは…なんというか色々考える時間がほしいというか……」


「どうした?俺にできることならなんでもいいぞ?考える時間が欲しいなら、先に服屋に行ってくるぜ!行こうぜティア!」


「ん…行く。」


「あ、駿河さん…い、行ってらっしゃいです……。」


「おう!じゃあな!仕事頑張ってくれ!」


「はい!…………なんでも……かぁ……。」




 ちなみにノノは駿河の後ろ姿を見つめながら、赤面しながらそう呟いたのだが駿河には聞こえなかった。

 もちろん、駿河の後ろに並んでいた冒険者が聞いていたので「さっきの男は誰だよ!?ノノさんの彼氏か!?」と叫び、話題になっていってることを駿河が知るのはもう少しあとのことである。




「この辺りに確か…お、あった噴水だ。」


 ノノさんから服屋の場所を聞いたあと、俺はすぐに噴水の広場に来ていた。


「ん…きれい。」


 ティアが噴水を見てそう言った。


「そうだな…今日は天気もいいしな。虹とかも見ようと思ったら見えたりしてな。」


「……虹?なに…?」


「おお、虹は知らないか?」


「…知らない。」


 虹を知らないとは意外だ。別に知らないからどうという訳ではないが…これも世界が発展してないのと関係あったりするんだろうか?


「そうだな…雨が降ったりした後に、空のどこかに…色とりどりの橋みたいなのがかかっているのを見たことないか?」


「ん……ある…かも?」


「ま、まあその橋みたいなのが、虹っていうものでな、こっちの世界じゃ常識なんだが…」


 まあ異世界に元の世界の常識を押し付けるのは変だよな。


「まあその虹っていうのはだな、確か雨が降ったときに空気中にある水蒸気が増えることで太陽の光が屈折したり反射したりして色がつくんだ。屈折率に応じて色が変わるから色とりどりになるんだな。」


「……?……?」


「はは、まあそうなるよな。悪い悪い。まあ要は雨が降ったら湿ってるだろ?その湿り気に光が当たって虹ができるんだ。」


「ん…なんとなく分かった…?」


 疑問系なのな…可愛いやつめ。


「まあそんなことはどうでもいいんだ、早く店に行こうぜ。」


「ん。」



 ということでしばらく広場の東側にある通りを歩いてみる。


「やっぱりいろんな店があるんだよなぁ…こう見ると対して日本と違いはないなぁ…」


「ん…にほん?」


「ああ、俺のいた国だ。お!あれは!!」


 俺の視線の先には…


「ん…この服?」


「おう!ティアに似合うと思うんだ!」


 ゴスロリ感溢れる服が置いてあった。黒を中心に白の線がすこしだけ入っている。スカートや袖にはフリルがついていて、めっちゃ似合いそうだ。


「ん…あるじ、いつもの顔…」


「いやティアさん?いやらしい顔がいつもの顔ってどんなやつなんだよ?」


「…あるじ…みたいな?」


 最近ティアさんが天然だからか気付いてないっぽいけど…かなり心に響くことを言ってくれるぜ。目覚めたらどうする。


「ティアに勘違いしてもらうとダメだからいっておくと俺が普通だからな?ティアが可愛すぎるのがいけないんだ。」


「…ごめんなさい……?」


「いやまじすみませんでしたティアさん。」


 道端で土下座したのはこれが初めてだよ…

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