第7話俺が王様と会ったならばっ!

 謁見の間に入ると、広く長い部屋で、奥に続く真っ赤な絨毯が足下にあった。


「スルガ殿、このまま刺繍のところまで歩いてくれ。」


 キャランが小声で指示をしてくれる。

 あ、ここか。ここで片ひざをついて頭を下げるんだったか。


「グラノ陛下!サラ姫様を助けてくださった、タカナシ スルガ殿をお連れしました!」


「うむ、よく来てくれた。貴殿がタカナシ スルガ殿だな、話は聞いてるぞ。我が娘を助けてくれたそうだな。人は見た目によらないものだ。なにかスキルを持ってたりするのか?」


 王様と言うだけあってかなり威厳のあるしゃべり方をする。何歳かは分からないけどイメージのわりに若いな。いかつい顔に髭を生やしていてちょっとダンディー。

 というかこれはどう答えればいいんだろうか?武術の才と魔法の才がありますなんて言ったらやばいんじゃないだろうか。とりあえず適当にごまかすか。


「いえ、そんなそんな、目立つようなものは…ただ、武術に関しては山奥で特訓をしていましたので、あのような盗賊などは余裕でした。」


「ふふ、そうか、言ってくれるな。我が娘の近衛兵が手間取った相手を余裕とは。」


 あ、やっべ…これしくじったか?バカにしたつもりはなかったけど、何が地雷になってるかわからんぞ…


「い、いえいまのは…」


「構わん、実際に貴殿の方が強いのだろうからな。よければ私とも戦ってほしいものだ。」


 え、なに?ここの王様は戦えるの?戦闘できる王様って大抵強いって相場が決まってるじゃん。戦いたくないよ?


「そ、そんなおそれ多い……です。」


「ふはは、構わん構わん。それで、褒美を渡さねばな。なにかほしいものはあるか?」


 あ、そういえばそんな目的で来てたな。まあ欲しいといえば欲しい…でも言えないんだって。そんなメンタルないっつの。強いていうならまあお金が欲しいけどね?


「いえとくになにかほしい訳では……」


「ほぅ、なにも欲しくないと?」


「いえ、ただ礼を目的として助けたわけではないのでなにも考えていませんでした。」


「ふむ、そうか。なればどうだろう。またなにかほしいものが出来たときにこちらへ参れ。」


 おぉ、すごい譲歩してくれてる。いいの?優しいぞこの王様。サラと同じ血が流れてるわけだ。←ちょろい。


「あ、有難うございます。すいません何から何まで…」


「構わんぞ、もし気にするならいつか願い事をするかもしれんな。私から直々に依頼をさせてもらうかもしれん。」


 おぉ?これが狙いか?でも…


「こんな子供にそんなこと頼むなんて……か?」


 あ、なんで分かるの。この親子。サラも王様もなんで心が読めるの?


「…そうですね。正直に言うとそう思いました。」


「ふはは、やはりか。確かにそう思うかもしれんが、私の観察眼は自分で言うのもなんだが、自信があるのだ。貴殿を見ていると分かる。なにかこいつは光るものがあると…な。」


 分かるものなのか?俺はそんなにすごい奴かは自信ないが、そんな風に言われるとちょっと照れちゃうな。


「そ、それは有難うございます。出来ることであるならまた受けさせていただきます。」


 この国にいる間はね。依頼のために戻ってきたりはしないよ?


「あぁ、頼むぞ少年。いやスルガ殿。」




 話も一段落したので、謁見の間から出て、サラに会いに行くことにした。


「えーと、確かここだよな。」


 場所はさっき通りかかったメイドさんに聞いて知った。やっぱりメイドっているんだな。メイドカフェとか行ったことなかったから初めて見たけど……いいな…俺もほしい。


「おーい、サラ……姫様来ました。」


「はい、いま開けますね。」


 これからサラの部屋に入るのか。姫様の部屋って想像できねえな…


「どうぞ、お入りください。きれいではないかもしれませんが。」


「あ、お構い無く…」


 部屋に入ると……あ、可愛らしい。全体的にピンク色にまとめてるんだな。壁紙や絨毯も可愛らしいピンク色だ。なんとなくサラに合ってる気がする。

 王女様の部屋のイメージとか天井つきベッドがど真ん中にポーンと投げられてる感じだったんだけど、そうでもないんだな。


「サラの雰囲気に似た感じの部屋だな。王族の部屋って言うからどんなもんかと思ったが、意外と乙女チックというか、普通の女の子の部屋って感じなのな。」


「私の雰囲気に合ってるでしょうか?他の殿方を部屋に招き入れるのは家族以外では初めてです。ちょっと恥ずかしいですね…。オトメチックというのはよく分かりませんが。」


 ちょいちょい通じない言葉があるんだよな…言葉選びも慎重にした方がいいんだろうか?まあ最悪なんか思われても自分の村の言葉と言えばいいだろう。方言的なね。


「良いのか?初めて入れた男が俺で。」


 そもそも王族が部屋に異性を招き入れること自体がいいんだろうか?ほら、キャランのときみたいに姫様をウンタラカンタラ!とか言われたら困るんだけど。


「いえ、むしろ駿河様でよかったです。」


「そ。そうか。……そ、それより俺を呼んだ理由はなんだったんだ?」


「特に理由はありません、駿河様とお話がしたかったんです。」


「俺の話か?そんな面白い話もないんだけどな…」


 平凡に生きて平凡な生まれで平凡の人生を送ってきた俺の話で王族を笑わせられるんだろうか?いや無理だろう。俺の人生で人をびっくりさせるようなことといったら今日異世界に転移したことくらいなんだけどな…


「そうだなぁ…」


「サラ!帰って来てたんだな!お兄ちゃんが会いにきたぞ!」


 ん?嫌な予感がするぞ?振り向きたくないなぁこれ。絶対ダメなやつだよこれ 。


「グルノ兄様!?勝手に入ってきては困ります!!」


「はは!愛し合ってる兄弟にそんな障害は関係ないのさ!!さぁ!お兄ちゃんと話を……」


 やたらテンションの高い声に振り返ってみると、入ってきたお兄様らしき人物と目があってしまった。グルノ?だったか、これやばくないか?えーと…


「は、はじめまして、サラの友人の高梨駿河です。よろしくお願いします。」


「サ、ラ?この男はいったい誰だい?」


 首!首の動きが怖い!擬音をつけるならガガガガって感じで動いた!キレてるよ!これプッツンいってるよ!!


「お兄様!お待ち下さい!その方は私を助けていただいた方です!なにかあるわけでは…」


「なに?助けただと?おまえと対して年の離れていない子供がか?それに近衛兵はどうした、確かお前の近衛兵の隊長は凄腕なはずだ。」


 そういえばキャランは副隊長なんだったか。隊長はあのときいなかったんだっけ。強いんだろうか。


「今回はクロノスは父様からの依頼で外に出ており、護衛にはいませんでした!そのときに盗賊が襲ってきて、近衛兵さんたちも応戦してくださいましたが、苦戦してしまい、そのときに現れたのがこの方だったのです!」


「こんな子供にそんなこと出来るわけないだろ!俺をだますつもりか!サラ!」


 なんでみんな子供子供ってばかにするのかねぇ…ちょっとだけムカつくんだよなぁ。王様は俺のことをしっかり認めてくれてたのにな。それになんでこいつはサラにキレてるんだよ、キレるのなら俺だろうが。違いもいいところだぞ。


「なぁ、グルノ王子だったか。」


「なんだ!平民が俺様に!タカナシスルガだったか!名字があるなら貴族なのか!?タカナシなんて聞いたこともない!どうせしょうもないところからきたやつなんだろ!そんなやつが」


 はぁ…ほんとこいつ……身分をよく気にするやつだ。こういうのって小説でよく見たもんだが、いざ目の前にしてみると怒りしか沸いてこないな。怒りというか呆れっていうのもありかもね。


「なぁ、そろそろ…」


「お止めくださいっっ!!」


 大きい部屋に響きわたるほどの声でサラは叫んだ。目には涙を浮かべグルノ王子を睨んでいる。サラの雰囲気が変わった。


「お兄様はいつもそう!いろんな人を見下して!もういやです!駿河様が平民とか貴族とか関係ないです!同じ人間です!」


「な、サラ………!」


 やばい、この空気どうしよう…でもここで俺がなにか言っても多分逆効果にしかならないはずだ…。


「おい、スルガだったな。お前、俺と勝負しろ。」


「おっと急にきたな。」


 いやまあもとよりそのつもりだったから、来なくてもこっちから勝負を仕掛けたがな。


「それとも俺に勝つ自信はないか?どうせ盗賊とやらも雑魚だったんだろうな!」


「やるなら早くやろう。時間がもったいない。」


「……っ!ああやってやるとも!こっちにこい!」


 うわぁキレてんなぁ…危なっかしいやつだ。サラと同じ血筋とは思えねえな。お父さんを見習えって。


「お兄様!お止めください!!なんでそんなことをするのですか!」


「うるさい!サラのためなのだ!」


「そんな…私のためなんて…」


 サラのためって…自分の理想を押し付けてんじゃねーよ。結局貴族ってのはそんなやつらが多いのかね。


「グルノ王子、早くやりましょう。」


「言われなくともいくさ!」


 子供なんてばかにしたんだ、それにサラも泣かした。許さん、赤っ恥をかかせてやるぜ。これが俺の異世界初めての難関になるかもな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る