第27話「レガリア」
「三種の神器が何か?」
いつものダボダボな格好から、外着に着替えようとしていた江を捕まえて、三種の神器について問う。
これからネット友達の竜子と遊びにいく予定だったのだろう。止められて不機嫌である。
なぜか外着をしまい込んでしまう。
「レガリアのことでしょ」
「レガリア?」
「王を象徴するアイテム。中国の皇帝なら
「ああ、聞いたことある。三国志に出てくるやつだよな。あの金印を巡って、誰が皇帝になるか争っていた気がする」
「金印じゃないし。あれは地位を認めた印章、つまり印鑑だけど、位によって材質が違うの。一番高い、中国皇帝が玉、宝石ね。続いて金、銀、銅と決まっているのよ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、日本で見つかった金印はその二番目なんだな」
「
江は律儀に説明してくれる。
「
「“
日本の王は、中国の皇帝に王位を認めてもらうことで、権威を強化したと言われている。皇帝にしたら、お前は俺の臣下だから、という従属の意味が含まれている。
「そういえば、秦の
初が補足してくれる。
「キリスト教圏のレガリアは、王冠と杖と玉。王様の肖像画をたぶん見たことあると思う。あと有名なのはロンギヌスの槍ね」
「おおっ、ロンギヌスぅ! エヴァでおなじみの槍だね!」
初はアニメ『エヴァンゲリオン』シリーズに登場する巨大な槍のことを言っている。
「ロンギヌスの槍は、十字架に
シャルルマーニュとはカール大帝のことである。フランク王国の国王で、のちに西ローマ帝国の皇帝となる。現在のヨーロッパ国家の基礎を作り上げたことから、ヨーロッパの父と呼ばれているらしい。
「シャルルマーニュといえばジョワユーズ! シャルルマーニュが愛用していた剣で、フランス国王に引き継がれていくんだ! ロンギヌスの槍が埋め込まれているんじゃ、って説もあるよ!」
「うん。ジョワユーズもフランス王家の権威の象徴となって、国王の肖像画に書かれてるし、ナポレオンの戴冠式にも登場してる。ナポレオンはロンギヌスの槍も探し求めたんだけど、フランス革命の渦中で紛失してしまったみたい」
「あー、ナポレオンに取られないように隠したとか言われてるねー。その後、フランスを制圧したヒトラーも、ロンギヌスの槍を探し求め、ついにゲットするんだけど、アメリカ軍に奪われ、なんかの偶然かその直後にヒトラーは自決することになるんだ」
2000年前のものが近代まで影響を及ぼしているのは、感慨深いものがある。レガリアを求めて、多くの戦が引き起こされたのだ。
「日本にもそういうのありそうだな。その家に代々伝わる剣とか」
「あ! それだよ、叔父さん!」
「へ?」
「戦国時代に関係するレガリア! たぶん、手紙はそれを調べろって言ってるんだよ!」
「そ、そうなのか……?」
確かに「八咫鏡」「八尺瓊勾玉」「草薙剣」の三種の神器は天皇のもので、あまり戦国時代の武将は関係ない。
「武士に関係するの、何かあったかなー? なにかない、シエ」
「うーん……。名刀は基本的に代々伝わる家宝だけど、数が多すぎるし……」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、鎧とか?」
刀が難しければ鎧はどうだろう。鎧は現存するものも多いし、有名なものもあるかもしれない。
「それだよ、それ! 武士の伝説級アイテム! 源氏の鎧!」
「え……エフエフ?」
「ファイナルファンタジーじゃないよ! ほんとにあった鎧!
「お、なんかカッコイイな」
「でしょでしょ! 手紙はこれを指してるんだよ!」
3つではなく8つなのではとツッコみたいが、「三種の神器」を「レガリア」と読めば、間違っていない気もする。
「……さっきから何を言ってるの? 手紙って何?」
江に不審がられる。
「あ、なんでもないから。大丈夫大丈夫。それより源氏八領ってなんなんだ?」
「怪しいし……」
無理矢理、話を変える。
「
「そういうのはセットでそろえておきたいよな……」
親子兄弟とはいえ、敵味方に分かれて戦うことになれば、負けたほうが滅びるのは仕方ないかもしれない。
「その後、
「もったいない……とは言ってられないか。重い鎧を来て逃げられないもんな」
「八龍は、8匹の龍の飾りが付いた鎧。源義平が着るんだけど、同じく平治の乱で逃げるときに脱ぎ捨てられちゃった。あとで義経が回収したみたいだけど」
「お、よかった。そのままだったら可哀想だもんな」
「そんで、現存してるのは楯無。盾がいらないほど堅いって名前の鎧ね! これも同様に源義朝が脱ぎ捨てられるんだけど、回収されるの。それを回収したのが、戦国時代の大名である武田家! この鎧が武田が源氏一族である証明になっていくわけねー」
楯無は「
「楯無といえば、武田滅亡寸前のとき、
「へえ、なんのために?」
「楯無を着られるのは武田当主のみ。武田は信長と家康に追い詰められるんだけど、信勝は信長の姪の子だから、武田当主を織田一族にするので許してほしい、という意味みたい」
「ああ、前に聞いたような気がする」
「うん。結局許されることなく、勝頼は
北条夫人は19才、信勝は16才だったという。
「それで武田家滅亡ってわけか。楯無はどうなるんだ、その後?」
「隠すんだけど家康に見つかって
三種の神器に関して考えられる情報はこの程度であった。
手紙の主が何を言いたいのかはいまだ分からぬままである。
江は僕と初が部屋を出て行ったあと、急いで着替えて、こっそり外出したようである。
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