第26話「三種の神器」
久しぶりに謎の手紙が届いていた。
『
三種の神器といえば、神代から天皇に継承されていた道具のことだろう。
まさか、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫の「家電三種の神器」ではあるまい。カラーテレビ、クーラー、自動車の新バージョンもあるが、それ以降の家電三種の神器はあまり聞かない。
今回のクイズは非常に簡単だ。いつもは姪っ子たちと頼らなければ分からなかったが、今回は自分の手でどうにかなりそうである。
兄の部屋にあった歴史用語事典を引っ張り出して、調べてみる。
三種の神器とは、「
八咫鏡と八尺瓊勾玉は、太陽の神である
草薙剣は、スサノオが
なぜそれで火を防げるかは分からないが、劇場版TRICKで同様のシーンを見たことがある。
「ねえ、叔父さん、ちょっと手伝ってほしいんだけど」
初がドアを開け、部屋に入ってくる。
初にノックという概念はないのだ。
僕は慌てて手紙を隠すが、その様子は思いっきり見られていた。
「今何隠したの? もしかしてラブレター?」
にやにやしながら初が迫ってくる。
「な、なんでもないから」
こんな意味不明のラブレターがあってたまるものか。
「じゃあ、見せてよ~」
初はベッドにダイブしてくる。
この部屋は本だらけで、ベッド以外に行動できるスペースがない。自分もベッドに座って手紙を読んでいた。
「こ、こら、やめないか……」
「いいじゃん~! 減るもんじゃないし~!」
テンプレのような台詞で、初が手紙を奪い取ろうとしてくる。
見られて困るものではないが、彼女たちの父が差出人であれば、何か重要な意味があるかもしれないのだ。できれば自分で処理しておきたい。
が、初に押し倒されてしまう。
この構図は正直反応に困る。初に体を乗っけられ、顔が、そして胸が近い。
強引に押しのけることもできるが、女の子にそんなことできるわけもなく、手紙をぶんどられてしまう。
「やりー! ……えっとなになに、『三種の神器は?』。なにこれ?」
「いや、よく分からないんだ……」
見られては仕方ない。これまでの事情を初に話すことにした。
「ほうほう、そういうことね。でも、歴史問題を叔父さん一人で解こうなんて、甘いっすなー!」
それは認めざるを得ない。
「ここは、コスプレ歴女のはっちゃんにお任せ! この謎、見事解いてみせようぞ!」
「頼もしいな。念のために、チャチャとシエには黙っておいてよ」
「うんうん! あたしと叔父さんだけの秘密だね! こんな面白いのは独占しなきゃ!」
なんかちょっとニュアンスが違う気もするが、それでよいとしておこう。
「この字に見覚えある?」
「うーん。お父さんの字っぽい」
「おっ」
「いや、違うかな? あんまり筆字って見たことないから、分かんないや」
「そうっすか……」
筆跡から送り主を探すのは困難のようである。
ならば、内容から考察するしかない。
「それで三種の神器なんだけど、なんか知っていることある?」
「三種の神器かあ。やっぱ
「壇ノ浦って、平家が滅亡したところだっけ」
「うん。本州と九州の間で行われた戦いで、かなり大規模な海戦が行われたんだ。
「そりゃあ、不気味すぎるよな……」
「
「なんだそりゃ!?」
安芸兄弟は、決して関わってはならない人種に挑んでしまったのだ……。
「そんで、
「戦というのは……うん、凄絶だな……」
これまでにも姪っ子たちに戦国時代の凄惨な話をたくさん聞いていたが、平安時代末期も同じく哀しい話がいっぱいある。
「三種の神器は天皇に引き継がれるもので、所持している者が正当な天皇だと主張できるんだ。だから源氏は海に沈んだ三種の神器を必死に探すんだけど、草薙剣だけは見つからず、
「じゃあ、今あるのはヤマトタケルが使ったものじゃないんだな」
「そういうことになるね。神話や伝説を信じるなら、新しい草薙剣は
「へえ。熱田神宮って聞いたことあるな。伊勢神宮とは違うんだっけ?」
伊勢神宮は「伊勢参り」という言葉があるくらいで、昔から人気のある神社である。熱田神宮も、どこかで名前を聞いたことがあった。
「どちらも古くからある神社で、伊勢神宮は八咫鏡が収められているんだ。ちなみに、八尺瓊勾玉の所在は皇居ね。熱田神宮はたぶん、信長の話で聞いたことがあるんだと思う」
「信長?」
「信長が桶狭間の戦いのとき、出陣する前に戦勝祈願をしたんだ。祈りが通じたのか、信長は今川義元を打ち破って逆転勝利!」
「へえ、三種の神器がある神社でお参りってのはすごいなあ」
「清洲城から熱田神宮まで20キロしかないから、祈願するなら熱田神宮だったんだろうけど、なんかありそうだよねー。信長は勝つべくして勝った、みたいな」
確かにそうかもしれない。その後、権力を持つ秀吉も家康も愛知県の人だ。草薙剣の力で天下を取ったと考えるのも面白いだろう。
「三種の神器に関することって、こんなもんだけど、結局、この手紙は何を言いたいんだろ?」
「それが分からないんだよなぁ。これまでの手紙もいろいろ調べてみたんだけど、なんでそんなクイズを出してくるのか、まったく見当つかない……」
「これは悔しいけど、シエに聞いてみるかな」
「えっ……」
さっき姉妹には内緒だと言ったのに。
「ちょっとヒントもらうだけだよー。手紙のことは言わないって。こういうの考えるのはシエのが得意なんだ」
初と江であれば、論理的に読み解くのは江のが上かもしれない。もちろん初の発想力の高さは侮れないのだが。
※1 ヤマトタケルが草薙剣で草を焼いたことが、静岡県の「
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