神はサイコロを振らない

カント

本編

 マークシートは得意だ。


 入試終盤、俺は机端の六角鉛筆を掴む。秘技・鉛筆転がし。解けない問題には、運否天賦で対抗だ。さぁ、秘技発動――の、直前。


 不意に、バタン、という音が響いた。


 見ると、前の席の女の子が床に倒れている。顔色が真っ青だ。だが、彼女は試験監督に「大丈夫です」と繰り返す。


 机に戻る。


 試験を続ける。


 ……何となく。


 俺は鉛筆を置き、愛用のシャープペンを再度握った。




「で、結果は?」


「落ちた」


「落ちたのかよ」


「でも次の年で受かった」


 そんなもんさ、と俺は息子に笑い、宿題の続きを促した。


「さ、もう一回考えてみろ。何事も粘り強く、な」


 後ろで妻が軽く笑った。いつかの青い顔は、もう彼方に消え失せたようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神はサイコロを振らない カント @drawingwriting

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ