第11話 妖精出現
四十秒と少しが経過した。
もうそろそろだろう。
時間を考えれば、アルンの手のひらに載せたアイテムの待機時間がもうじき終了するはずだ。
だがそれを阻止しようとでもするかのように、突如大量のモンスターがユウ達が北方向から姿を現した。
ゴブリン、オーク、このダンジョン内で目にしたモンスターのみならずトレントやレイスなど、目撃情報にはなかったものまであった。
ウィーダ「うお、何だ? あの何でもあり軍団は」
ゴンドウ「むむっ、面妖な」
アルン「あれ、ねぇ……ちょっと、先頭にいるのって……」
仲間+エキストラの反応を見ながらユウは、アルンの発した言葉を引き取って呟いた。
こちらに向かいこようとしてる多数のモンスターの先頭に飛んでいたのは。
ユウ「妖精……?」
だったのだから。
絵本の中から飛び出たような様子の、羽の吐いた小さな小人が宙に浮いている。
その小人の手には、まさしく妖精らしいキラキラした杖が一つ。
このクリエイト・オンラインには妖精というモンスターは存在しない。
ファンタジー世界を模した仮想世界ではあるのだが、対象とする利用者は十代後半から二十代、三十代男性。
女性受けしそうな外見のモンスターは少ないし、妖精などはこの世界には存在しないはずだった。
それはデスゲームによる何らかのゲームの仕様変化なのか、それとも意図しないバグなのか。
どちらにせよ、情報もなしに迂闊に戦闘していい相手ではないだろう。
ユウ「アルン、時間は」
アルン「後、5秒ほどですぅ」
10秒にも満たない脱出までの時間。
モンスター達は以前、ユウ達に遠く及ばない距離にいるが、戦闘にいる妖精キャラクターが何らかの遠隔攻撃の手段を有していないとは限らない。
なので、ユウは。
ユウ「敵は、気にするな」
「何とかする」とギルドメンバーにそう言って、呼び出したシステム画面から、ワンタッチで緊急指定アイテム「無色の団子」取り出した。
無色の団子はユウの好物だ。
あん団子や三色団子、黄な粉団子も捨てがたいが、味がなくて見栄えも良くない子供の頃に手作りした無色の団子は特別だった。
錬金術で作られたものは個人の好みに左右されるので、このようにTPOにふさわしくない見た目のアイテムが出来てしまう。
だが、首をかしげたくなるのはあくまで見た目だけだ。
ユウ「……」
ユウは無言でそれを放り投げる。
食べ物の見た目をしたものを食べずに放り捨てるのは気が引けるが、仕方がない。
何故かこの「電光石火」のメンバーの作るアイテムは食べ物ばかりになって、使用する度に少々バツが悪くなるのだが、気にしてはならないのだ。
妖精は己の近くに放り投げられた団子を杖で叩き落そうとするが、触れた瞬間、団子が粉上になって爆発。煙幕が満ちた。
時間稼ぎにはなっただろう。
アルンの「発動ですぅ」という声が響いた。
ウィーダ「小麦粉の素材から作った団子が、また材料の状態に戻るとか、今更ながら思うけどいつ見てもシュールだよな」
最後にウィーダがそんなコメントを寄越してきたが、それこそこのオンライン世界に来ておいて今更だろう。
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