第2章

第12話 アルンの出会い



 三年前。


アルン「ちょっと、いちゃもんつけないでよね。あたしが先に依頼を受けたんだから、マップ占領しないでよ!」


「電光石火」のギルドメンバーアルンがユウと出会ったのは、クリエイトオンラインで出来た友人を一人失った、そのすぐの時だった。


 イベントクエストをこなしている最中に、他のプレイヤー集団がアルンが活動していたマップにやって来て、モンスターを狩り尽くそうとしていたのだ。


 他のオンラインゲームでもそうだが、マップ上の敵を狩り尽くすとしばらくは出てこない。その敵がすぐに復活するわけではないのだ。


 一定期間を得てモンスターは補充されるので、その間にフィールドを狩り尽くしてしまえば、滅多な事ではモンスターに出会えなくなってしまう。


 初心者でもないなら誰でも知っている事実だ。


アルン「あんた達、中級プレイヤーでしょ!? 初心者のアタシでも知ってる事を知らないとは言わせないわよ」


 アルンは当然のごとく怒った。

 だが彼らは、オンラインゲームを始めたばかりの少女の怒りなど、些末な事だと思ったらしい。アルンに謝罪するどころか剣を向けてきたのだった。


アルン「何のつもり……?」

男「よぉ、威勢の良い嬢ちゃん。PKって言葉知ってるか?」


 口を開いたのは中級プレイヤー集団をまとめているだろうリーダー格の一人。ニヤニヤ笑いを浮かべたその男が少女に近づいてきて、見下ろしながら話しかけた。


 アルンはそんな男の態度にも怯む事なく、視線をあげて睨み返す。


アルン「なめないで。それくらい分かってフィールドに出て来てるから。プレイヤーキラーでPK。敵とかイベントボスとかモンスターじゃなくって、同じプレイヤーを狙ってくる卑怯者たちの事でしょ? 違う?」

男「よぉく、知ってるじゃねぇか」


 男は剣を掲げてアルンへと突きつける。


男「あれって結構、美味いんだよな。モンスターねらってちまちまやるより、ためこんだプレイヤー殺した方がアイテムとれるし、経験値だって手に入る」


 こちらの反応の変化を待つように、男はそう喋ってアルンの様子を窺い続けるのだが……、


アルン「あんた馬鹿ぁ?」


 狙い通りの反応を返す程、こちらは気弱ではなかった。


男「んなぁ」


 挑発的な言葉を受けて、ご丁寧にも感情変化を読み取たシステムが、男の額に青筋が浮かび上がらせた。


 背後にいる中級プレイヤー集団も一様に同じような表情になる。


アルン「この世界では、他の世界みたいにPKになったらペナルティが存在するわけじゃない。けど、『そんな事を当たり前みたいな顔してやってるのが恰好良い』だなんて誰も思わないから、不細工野郎。モテたいならもっと別の方法にしなさいよ」

男「は、はぁ!? 何言ってんだこいつ! 今すぐ殺されてぇのか!」


 男がつきつけた剣先が怒りのあまりぶるぶると震え始める。が、アルンはそんな男の様子にもまったく動揺を見せない。


 逆に、その剣を掴んでみせた。


アルン「ここであたしを殺しても、あんた達は絶対いつか自分の行いで首を絞める時が来る。咎められないからやっても良いってわけじゃないのよ。偽物の世界でも」


 活動拠点としているミントシティでは、PK集団の出没が噂になっていた。

 

 狙われるのは弱い者、初心者ばかりだった。

 けれど、ルールで決められていないから被害があっても運営は動かない。

 初めは泣き寝入りするしかなかったのである。


 だが、悪事を働く者がいるのなら、またそれを止める者も自然と出てくる。


 PKを防ごうという名目で集まったプレイヤー達がフィールドの見回りを強化する事になったのだ。


 今男に言った事はまぎれもなく自分の意見だが、時間を稼ごうという意図もあった。


 そうすれば見回りにでているはずのプレイヤー達が、アルンを発見してくれるかもしれないと思ったからだ。


 だが、さすがにそれば望みすぎだったようだ。


男「こ、こいつっ! 子供だからって、言いたい放題しやがって!」


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