第10話 現実の延長線上
この無限ダンジョンに入った理由は、わざわざ振り返るまでもない。
捜索対象であるプレイヤーを回収して、脱出する事。
アルンの言った通り、やはりゴンドウはダンジョンに入り込んでいた。
ユウ達が見つけた時に彼は、開けた一画にいた。そこで己より一回り大きいモンスター、ミノタウロスと対峙し、ちょうど倒しきる所だった。
それを見たウィーダが思わずと言ったように、言葉をこぼす。
ウィーダ「うわ。ライフ固定されてるのは分かってるけど、心臓に悪い光景だな」
本来の戦いで、あのモンスターとゴンドウが戦った場合どちらが勝ったのかは分からない。
だが、(データの欠片となって壊れる直前に見た)そのモンスターは、中々迫力のあるものだった。
おそらくその戦闘は簡単には勝敗の決まらない勝負だっただろう。
プレイヤーの位置は、最初に確認した時からほとんど動いていなかったからだ。
それを証明する様に、ゴンドウの表情には精神的な疲労が刻まれていた。
ゴンドウ「うむ、敵ながら中々骨のあるモンスターだった」
ウィーダ「おーい、ゴンドウさん」
達成感を滲ませながらそう口に出すゴンドウに、ウィーダが真っ先に声を張り上げながら近づいていった。
ウィーダ「何やってんだよ、こんなとこで」
ゴンドウ「む、主等は「電光石火」か。もしやお主等たちもこのダンジョンに?」
ウィーダ「そんなわけないだろっ!」
危機感のない様子のゴンドウの言葉に脱力する姿勢を見せたウィーダは、ほっとした表情でダンジョンからの脱出を提案する。
ウィーダ「俺達の事はとにかく、とっととここから出てくれよな。ゴンドウのおっさんの気持ちも分からない事はないけど、こんな時に無闇に高レベルプレイヤー向けのダンジョンなんかに突撃しないでくれよ」
ゴンドウ「む、事情はよく分からなぬが手間をかけさせてしまった様だな。すまなかった」
ユウ達が何を懸念してここまでやって来たのか、察する事のできないらしいゴンドウだが、自分の行動が他の者に迷惑をかけたことぐらいは分かったのだろう。
素直に頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
話が落ち着いたのを見て、アルンが明るい声を出す。
心配なのは彼女も同じだったようだ。
アルン「じゃあ、後はアイテム使ってここから出るだけですよね。ユウ様の手を煩わせるほどの事じゃないですよ。緊急脱出用のアイテムは私が使いますぅ」
ユウ「ああ」
口に出してこれからの行動を確認したアルンが、システム画面を操作して専用のアイテムを取り出す。
特に反対意見はないので、ユウはそれを了承した。
このオンラインゲームでは、プレイヤーが錬成した特殊アイテムとは例外に、きちんと通常のゲームで必要になりそうなアイテム、回復用の薬やら状態異常解除用の霊薬なども存在している。
NPCが商う店で販売されているので、その品物を購入するのが便利だ。自前で作成するよりもコストはかかるのだが、安全なゲームプレイをまともに考える者ならば、一通りの種類は絶えず持ち歩いているだろう。
ゴンドウ「ふむ、脱出用のゲートアイテムか。それを使うのは半年ぶりとなるな」
当然、ゴンドウのように購入もしなければ所持もしていない少数派もいるが。
そんなセリフを聞いたウィーダが、ため息と共に応じる。
ウィーダ「ゴンドウさんは相変わらずだな」
市販のアイテムも錬成したアイテムも、使用待機時間がある。実際に効果を表すまでの時間が数秒から一分ほどかかるのだが、その中でもダンジョン脱出用のアイテムは最大待機時間の一分がかかる。
その間、暇になるのでウィーダは雑談して潰そうとしているのだろう。
ウィーダ「そんなんで、このゲームやってけるのが驚きだ」
ゴンドウ「そうか? 仮想の世界と言えど、その世界に生きる者の魂は同じ。ならば現実と同じように生き、自然体のまま楽しむのが良かろう」
ウィーダ「大抵のプレイヤーはぜんっぜん正反対の思考でこの世界に来るもんなんだけどなぁ」
現実では体験できない経験をするために、現実にある人間関係や束縛から逃れるために。
そういった目的の為にこのオンライン世界を利用しているプレイヤーの方が、圧倒的に多いだろう。
だが、目の前にいるゴンドウというプレイヤーはあくまでも、この世界の事も現実の延長と考えているらしい。
その考えに同調してみせるのは、ギルドメンバーの一人アルンだ。
アルン「ちょっとだけど、ゴンドウさんの考えあたしにも分かっちゃうなぁ。ここで好き勝手やって現実の自分が直接どうなるわけじゃないけど、繋がってるとこだってあると思うし」
だが、「だからってさすがにノーアイテムで無限ダンジョンに突撃するのはどうかと思うけど」と最後には付け加えたが。
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