第8話 自動発動と任意発動



 頭の中でざっとステータスを振り返った後、ユウはアルンへと声をかけた。


ユウ「アルン、何があるか分からない。飛んでろ」

アルン「はーい、分かりましたぁ」


 アルンはシステム画像を目の前に表示させ、アイテムを使用。

 その場に巨大なエビの揚げ物を出現させた。


 揚げ物はダンジョン内を走るアルンの動きに追随しながら、浮かび続けている。


アルン「見た目が可愛くないから、前の箒の方が好きなんだけどなぁ」


 不満を呟きつつアルンは、その揚げ物に「よいしょっ」っと飛び乗った。


 アイテム名 フライエビ


 アルンがエクストラ調合で錬成したもので、プレイヤーを乗せた状態で空を飛んで移動する事が出来ると言うもの。

 その状態なら、床に設置されたトラップに引っかかる事もなく、かつ上空から敵に攻撃を加えられるという利点がある。


 空を飛ぶアイテムはかなりレアな方で、ユウが知っている範囲では片手の指で数えられる程しか存在していない。


 ある意味シュールな見た目だが、有用性は計り知れなかった。


 そんなアルンの姿を見たウィーダが呟く。


ウィーダ「ずりぃ、本物の体じゃなくても俺等は疲れるんだぞ」

アルン「別に良いじゃない、本物の疲労じゃなくて脳が錯覚する『気のせい』なんだから。あんたは馬鹿らしく地面を這いつくばってでもいればいいのよ」

ウィーダ「こんな危険な場所で誰が這いつくばるかよ!」


 アルンはウィーダのそれには答えず、舌を出すのみだった。


 とはいえ、多少はウィーダの気持ちも分からなくはない。

 仮想のデータで作られているとはいえ、この世界のユウ達は疲労を感じとれる。

 それが脳に与えられた錯覚の情報だとしても、肉体の状況にプレイヤーのやる気や集中力が影響を受けてしまうのは必然の事。


 長期に活動するつもりはないが、ダンジョン内の探索は出来れば早めに切り上げた方が良かった。

 特に、今日はデスゲーム初日の混乱があったので、なおの事。


 表面上では主だった変化が見られなくとも、気をかけられるのならかけておいた方が良いだろう。


 そんな風に考えていると、先頭を走っているウィーダが声をかけてきた。


ウィーダ「お、ユウ左側にトラップがあるぜ」

ユウ「そうか」


 ウィーダの特殊スキルであるトラップ探知が発動したのだろう。

 特殊スキルは通常のスキルとは違って(一部例外を除いて)自動発動だ。

 マジックポイントはその度に減っていてしまうが、いちいち気にかける手間が省けるし、必要な時にしか発動しないものばかりなので、よっぽどの事がない限り不便にはならない。


 ユウは警告に従って、右側に避けた。


 ウィーダはそれを見て、このダンジョン内に入る事になった原因人物について質問してくる。


ウィーダ「おけおけ。で、今ゴンドウさんはどこら辺にいるんだ?」

ユウ「……、ここから数キロ先にいる、辿り着くのに十数分くらいかかるだろう」

ウィーダ「俺達かなりレベル上げしてるけど、それでもそんなにかかるのか」

ユウ「ああ」


 ユウは質問してくる仲間に対して、そう肯定の言葉を返す。

 現実の肉体ではそうもいかないが、高レベルプレイヤーは己のレベルに合わせた身のこなしができるようになる。


 レベルアップの際に、得られるポイントで筋力や俊敏性などの細かいデータを上げていけば、現実の肉体には出来ない事も自然と出来るようになるのだ。


 レベル百を軽く超えているユウ達なら、全力疾走できればそれなりのスピードは出せるのだが、いかせん場所が場所だ。


 入り組んだダンジョンは、絶えず通路が分かれていて、モンスターなども徘徊している、楽に進めるとは思わない方がいいだろう。


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