第2話 通知メール



 だが、ユウが発したその言葉はウィーダにとって驚くべきものだったらしい。

 目を見開かれ、軽く身を引かれる。


ウィーダ「は? お前、運営からの通知メール見てないのか?」


 言われて、ユウはオンラインゲームをする以上は欠かせないもの、システム画面を表示する。


 目の前に表示された画像を注意深くチェックしてみるのだが、それらしいメールは一つもなかった。


 ウィーダの言動を考えれば、ユウ以外のプレイヤーには、運営からのメールが届いたらしいが、なぜかユウのシステム画面内にはそれらしい項目がまったく存在していなかった。


 他にあるのは今回ログインする前に受け取った、このオンライン世界で知り合ったプレイヤーからの個人的なメールのみ。


 不手際。

 という事は考えにくい。

 他のプレイヤー達に届いたのなら、自分だけが何らかのバグを引き起こして、メールを受け取れなかったと考えるのが自然だろう。


ユウ「障害か……?」


 ユウは、一日のスケジュールを思い起こして、自らの行動を省みていく。


 通っていた高校の授業が終わった後。

 家に帰って来て、夕ご飯を食べた。

 その後は、オンライン世界での待ち合わせ場所へと向かうべく、仮想世界への入り口となるゴーグルをつけて、ゲームを起動。


 いつもなら、五分前行動を心掛けて待ち合わせなどの時間より若干早く向かう所だったのが、今日は家族に用事を言い渡されていたので、ギリギリになってしまったのだ。


 最後に私室で見た部屋の時計の時刻は……。

 七時五十九分。


ユウ「八時ちょうどにログインした。その時に何らかの障害が起きたようだ……、来る前に一瞬ブラックアウトした」


 確かそうだった。


 待ち合わせ時間ぴったりにオンラインゲームの世界へ向かう事になって、普段は時間にずぼらである友人ウィーダが先に場所に来ていたら、謝らなければならないと思っていた所だ。

 だが、この世界に来る時に表示された画面にノイズが走って一瞬だけブラックアウトしたのを覚えている。


 それはたった一秒にも満たない出来事だったが、気のせいではない。

 仮想世界に赴いて周囲全てを暗闇ん意包まれるという体験は、なかなか背筋を凍らせる威力だったからだ。簡単にはあの感覚は忘れられはしないだろう。


 そんな事を話せば、ウィーダは頭を抱え始めた。


ウィーダ「はぁあ!? マジかよこの大変な時にギリギリアウトで滑り込んできたのか、お前馬鹿だろ!」


 理由も分からない状態で馬鹿呼ばわりされるのは釈然としない。


 普段から、周囲の人間に見た目がぼんやりしているなど言われるユウだが、さすがに何も把握できていない状況で、そんな風に言われたなら怒りの感情を抱かないわけにはいかないだろう。


 なので、礼儀として靴を踏んでやる。


ウィーダ「いてっ! お前仕返しが地味なくせに、妙に痛いな。いてぇ! おい、連続で踏むな! 靴に穴が開いたらどうするんだよ、これお気に入りなのに」

ユウ「装備品はデータだ。摩耗はしない」

ウィーダ「知ってるよ! そんな事は!」


 誰かさんの性格のせいで、このオンライン世界では人の靴を踏む回数が格段に上がったので、どこにどうやって力を込めれば効くのか分かる様になってきていたのだ。

 まったく嬉しくない成長ではあるが。


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