第1章

第1話 始まり



 ミントシティ


 異変に気が付いたのは、オンラインゲームにログインして、ほんの数分後の事だった。

 駆け出し冒険者が利用する最初の町、緑と生命の街……ミントシティを訪れたプレイヤー、ユウは周囲の雰囲気に困惑していた。


 周辺にいる者達は皆、不安そうな表情をしていたり、髪を振り乱しながら泣き叫んでいたり、呆然としていた様子でいる。


 町の中は常にない緊張感と、絶望感で満ちていた。


ユウ「何が起こった……?」


 時刻は夕方八時。今日は平日の金曜日。

 オンライン世界の時刻もそれと同じ。


 周辺はすっかり暗くなっており闇夜に沈んでいるのだが、週終わりの金曜日ならば、普通はもっと明るい雰囲気に満ち溢れているはずだった。


 立ち止まって考え続ける。

 なぜ、こんな事になっているのかと。


 ユウは高校が終わって、帰宅してすぐにこのオンライン世界にログインした。

 友人との待ち合わせがあったので、この世界に来た後はすぐ待ち合わせ場所に向かおうと思っていたのだが、足をしばし止め、周囲の様子をよく観察してから行く事にしたのだ。


 疑問に思っているとこちらへ声がかかる。


ウィーダ「おーい、ユウ。大丈夫か?」


 状況を把握しかねて立ち尽くしていたところに、遠くから駆け寄って来る人間がいた。

 どうやら向かうより前に、こちらの行動を把握していた友人の方が拾いに来たらしい。


 青い長髪に、白を基調としたロングコートを着込んだプレイヤー。

 この世界での名前はウィーダだ。


ウィーダ「くそ、いつものひがみ野郎に絡まれてたせいで遅くなっちまったじゃねーか」


 ウィーダの歳は十代後半、大体高校生くらい。

 中身の歳もそれと同じくらいだと聞いた事がある。


 美形と言えなくもない顔立ちをした彼は、この世界で出会って半年ほどの人間であり、ユウの友人だ。

 この世界……クリエイト。オンラインの世界については、一応先輩にもあたる人間だった。


 ウィーダはこちらの姿をまじまじと見ながら、あれこれ質問してくる。


ウィーダ「トラブルに巻き込まれたりしてないか? 変な連中に絡まれたりとかは? 今はちょっとあちこちやばい事になってるからな」


 心配そうにする友人に首を横に振ると、ほっとした反応が返って来る。


 あれこれ人の事を気に掛けるのは、ギルドリーダーである立場の習性だろう。

 ウィーダは、ユウを含めた他一名をメンバーに持つ小ギルド「電光石火」のリーダーだった。


 自分より早くこの世界に来ていたのならば、何が起こったかという事情も把握しているかもしれない。そう思ったユウは目の前にいるウィーダへと尋ねる。


ユウ「これは一体どういう事だ」


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