第11話いくわよ白身!
「わーん、失敗! ううう」
お料理仙人は黙って、飯田さんの頭上にぷかぷか浮いています。
「お料理仙人、言われた通りやったのにー」
飯田さんの足元には、白いものがこぼれています。
『黄身とろ~りのゆで卵はできたではないか』
「ええ? けど、殻をうまく剥けなくて」
『ちょっと待ったー!』
「はい」
『それは注意深く剥かないのがいけないぞ。料理自体はそれほど失敗しておらぬ』
「でも、ゆでた後にすぐ水につけたのに、殻に白身がくっついて、ごっそり取れちゃったのよ」
『ともあれ、レシピの確認じゃ!』
<レシピ>
・ほったらかしゆで卵
1、 鍋に二個の生玉子を入れ、玉子が隠れるくらいに水を入れる。沸騰するまで、ときどきさいばしでまぜながら、火にかける。
2、 水が沸騰したら、火を止め、好みのかたさになるまで蓋をしたまま放置する。
3、 5~6分で半熟卵、15分放置すれば固ゆで卵になります。
※、玉子の丸い部分に画鋲で穴をあけておくと、殻が割れません。
「うもー! 沸騰したお湯につけるだけだっていうから」
『まあ、勘をつかむまでが修行じゃな』
「ぐすん」
とりあえず、米飯に残った温泉卵の黄身をのせて、ニンニク醤油で玉子ご飯。夕べ皿にだしておいた冷凍ブロッコリーが無事解凍されてたので、これものせて食しました。
「もう一個は牛乳大さじ二杯と、とろけるチーズをのせて、レンジで一分」
『うーむ。確かに独創的じゃが、アリかのう』
「今日中にリベンジする!」
『楽しもうではないか。そう固くならず』
「固くならないとゆで玉子を制覇したとは言えない!」
『熱血じゃのう……』
「オムライス……? 今、オムライスが食べたいって言ったの?」
飯塚君はにこにこ。
これには仁王様のように怒って飯田さん、
「私がゆで玉子に失敗したっていうのに!」
よっぽど言おうかと思いましたが、踏みとどまりました。
「いいわ、部屋へ行って待っているがいいわ」
つん、として言い放ちますが、これは虚勢。
飯塚君のいないところで、お料理の本をめくります。必死。
「ええ? 一番簡単な方法が、ケチャップライスを薄焼き卵で巻くの? ゆで玉子すら温泉玉子になっちゃうのに?」
飯田さんは、気が遠くなりそうです。
お料理仙人が言いました。
『なんの、厚焼き玉子をみごと制覇したではないか。がんば、がんば!』
「そんなこと言ったってー」
『薄焼き卵の成功のコツは、片栗粉を水で溶いて混ぜておくことじゃ』
「なんで片栗粉」
『そこからかー』
お料理仙人はがっくり。
「初めてなんだからしかたないでしょ」
『片栗粉を使った料理は知ってるかね』
「んー、お母さんの唐揚げ?」
『他には?』
「エビチリ。中華どんぶり」
『ふむ。一通り食べてはいる、とすると。片栗粉が何でできてるかは知っておるか』
「バカにしないでよ! 小麦粉でしょ!」
『ぶっぶー。正解はでんぷんじゃ。加熱すると粘りがでて、料理にとろみがつくのじゃ』
「……」
『応用じゃぞ? 片栗粉を玉子に混ぜると、生地がつよくなって、破れにくくなる』
「ていうか、薄焼き卵って、破れるの?」
『粘度が薄いとな』
「完璧なレシピを頂戴!」
『おうよ!』
<レシピ>
・薄焼き卵(二人前)
1、 玉子二個をボールに割り入れ、塩、水溶き片栗粉(小さじ二杯)をまぜて、ざるで一回こす。
※一回こすと、白身が固まらず、破けにくい。
「ざるにあけて、下にしいたボールにこすと早いわ」
『そういう悪知恵は、まあ。嫌いではないぞい』
「片栗粉っと」
『おっと、ちゃんと水で溶くんじゃぞい』
「わかってるって」
2、 フライパンに油をひき、熱して、卵液を四分の一、おたまですくって流し入れる。フライパン全体に広がるようにする。
3、 玉子の表面が乾いたらできあがり。まな板にフライパンをひっくり返してゴンと縁をまな板にうちつけるときれいに玉子が剥がれる。
※フライパンを選びたいならテフロン加工が一番いい。それでもだめなら片栗粉を少量の水で溶いて入れる。
『おいしいごはん、おいしいごはん』
「やめてよ、プレッシャーかけるのは」
『ビギナーズラックという言葉もあるぞい』
「んもー……」
<レシピ2>
・オムライスの中身
1、 たまねぎ四分の一個をみじん切りにし、鶏肉(もも)80㌘を切ったものと一緒に炒める。(それぞれ一センチ角)
2、 火がとおったら、ご飯を混ぜ入れ、ケチャップと塩で味付け。
※ご飯はアツアツのものを使いましょう。
「鶏肉のかわりにシーチキン入れちゃったけど、いいよね。――ようし! 成功!」
『たまねぎが焦げとるぞい。それでいいんか?』
「ちょっとくらい、わからないわよ」
『味見をしてみい』
舌にほろ苦い味がしました……。
「あちゃ! これはダメだわ」
『大丈夫。これは練習。玉ねぎもまだある』
「ぐっすん」
『まだまだ、これからじゃのー』
「なかなか人に食べてもらうところまでいかないんだけれど……」
飯塚君はまだ知りません。
手作りだからといって、おいしいとは限らないと言うことを……。
『それでもおいしい、ごはん、ごはーん』
失敗作のオムライスを頬張って、微妙な顔をしながら、お料理仙人を見送る飯田さんでした。
「明日こそ、リベンジ!」
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