第6話イケメンご飯
とある夕方、飯塚君の男性寮に押しかけて、飯田さんはキッチンを借りました。
持参したのはゴボウとニンジン、玉ねぎとレタス。土鍋と精米したての米です。
早速、ゴボウとニンジンをピーラーでささがきにします。
「お料理仙人、ささがきってこう?」
いやいや、細く長くでもいいんですけれどね?
『鉛筆削りのように、ピーラーを斜めにかけるんじゃ』
「……」
ピーラーは薄くしか剥けないし、ゴボウを回しながら持っている左手に負荷がかかります。
飯田さんははりきってきた手前、手が痛いとは言えません。
ピーラーでささがきにすると薄いスライスになりますが、これは火の通りが良さそうです。人参もピーラーで、とはお料理仙人に言われましたが、くたびれるので千切りにしました。
「お料理仙人たすけて!」
『ほいほーい』
きんぴら(二人前)
1、フライパンにごま油大さじ二を熱し、
切ったゴボウ(半本)とニンジン(一本)を入れ、強火でさっと炒めます。
2、最後に砂糖大さじ二分の一、しょうゆ大さじ一、鷹の爪一個を種抜きにし、ちぎって入れます。水気が飛んだらできあがり。
「う、これ甘口? でもピリッときたよ」
「え? 本当?」
辛いといった飯塚君はほら、と箸でつまんで飯田さんの口に運びました。
ためしに一口食べると、口の中がヒリヒリしました。
「ごめん。これ辛かったね」
よく見ると飯塚君はコンブポン酢をふりかけています。たしかに薄味ですが素材の良さとほんのりとした甘さがいいのに。
味の好みは人それぞれですね。
「それ、おいしいの? もうひと口頂戴」
すると飯塚君のきんぴらはサラダのようにさっぱりとした味になっていました。
「うん、薄味だけど、好きな味をつけて食べられるからいいね」
「そういうおまえはさっきから醤油ばっかりかけてるな」
「う! 鷹の爪の種をとってなかった。辛いよー!」
その後、昆布茶をのむ三十分後まで口の中はヒリヒリして痛みました。
※唐辛子の種は抜きましょう。
飯田さんはお詫びにもう一品つくることにしました。
「なにがいいかなお料理仙人?」
「よしきた。今日も楽しくごはんごはーん」
<レシピ>
オニオングラタンスープ(二人前)
1、 玉ねぎ一個を細切りにして、バターをかけてレンジでやわらかくなるまで加熱する。
2、 ナベに先の玉ねぎをいれ、炒める。
3、 そのナベに600㏄の水を入れ、固形のコンソメ(なければ顆粒)を二個入れて煮立てて、塩コショウで調味する。
4、 耐熱器にできたスープを入れ、こんがり焼いたフランスパンとピザ用チーズをふりかけてトースターで焦げ目をつけてできあがり。
「おいしいよ!」
飯塚君ははっきり伝えました。
料理初心者の飯田さんはそれでも言わずにはいられません。
「バターがなくてマーガリン使ったけど……それにフランスパンがないからトーストととろけるチーズでレンジで一分しか熱してないんだけど」
飯塚君はこういうときの対処法を知っています。
「一緒に食べようよ」
え? と飯田さんは緊張しながら、迷いました。
「まずくはないと思うんだけど……」
「うん、だから、一緒に食べよう?」
飯田さんはありがたくて目頭が熱くなりました。
『だんだん、うまくなるぞい』
お料理仙人が、ホックリ笑いました。
「今日のはいきあたりばったりで賞」
お料理仙人はのほほんとして、なにも心配いらない、と微笑んでいます。
そして二人はレンタルショップで借りてきたDVDを片っぱしから見ました。
後片付けをしていた飯田さんは、ところどころ記憶が抜けてますが、飯塚君はテーマと構成をかいつまんで教えてくれるので、何ら不足はありません。
ただ……「坂本龍馬」上下巻を観ていたとき、飯田さんはうっかりしました。
「坂本龍馬ってかっこいい」
画面を見つめていた飯塚君は、
「龍馬はかっこよくないでしょ」
「なんで」
飯田さんは食い下がりましたが、飯塚君は納得しません。
「えー? 主演の真田広之さん、イケメンだよ。演技に華があって、背中で演技するとこなんかさすがって感じ」
「うるさいなあ」
飯田さんはそれでも言いたいことがあるのです。
「真田さん、細い体を大きく見せる演技してるよ。華がある。脱藩するとき、仲間に罵られて、背をむけて窓によるとき、背中が小さく見えたもん。か細いっていうか。後ろ姿で演技してるんだよ」
飯塚君は不機嫌になりました。
「これは坂本龍馬の伝記的時代劇だろう? 一部だけ見てごちゃごちゃ言わずにさあ、この時代になにが起こったか、そういう歴史的背景に思いをはせて見てるんだよ、俺は」
「私、時代劇をあまり見ないの。邪魔してごめんなさい」
「いや……」
またも飯塚君はこんなときの対処法を知っていました。
「もう一度最初から見ようか。一緒に」
飯田さんは戸惑いつつも、彼のそばへと寄りました。
「坂本龍馬の役の俳優が二枚目じゃなかったら、よかったのにな」
それは心の片隅にしまっておくべきで。
飯塚くんはすこし悔しそうに口をつぐみました。
飯田さんは俺といても、芸能人のイケメンのほうが気になるらしい。
そう思って。
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