第2話お昼から玉子(スクランブルエッグ)

 昨日できあがったばっかりの、自覚のないアツアツカップルの飯塚くんと飯田さん。


 昨夜はなにを食べたかな?


「今朝は、ずいぶんと腹が減ったと思ったよ」


「出かけたのが十九時じゃんかー。夕飯どこかで食べなかったの?」


「ろくに食べてないところに、米の飯だけって、正直キツイ」


 ※実話です。





「でもでも、アツアツだったでしょ?」


「庶民的」


 むうっとしてたたみかけます飯田さん、鬼の角が見えます……。


「おいしかったでしょ?」


「働いたのは電子ジャーだよね。ごくろうさま。なんちゃって」


 と言って、飯塚君は電子ジャーをなでなでします、という手つき。





「十二時だ。もう休めるぜー」


 と言っても二人の休み時間は約十五分。


 え? 二人はなにをしているのって? 飯田さんはバイトです。安っぽくなんてないですよ。かに道楽で働いているのは、飯塚君。近くのビルに寮があるのでした。


「食堂行く? それとも私んち?」


「おおー、米飯以外でリクエストしちゃうかな」


 お昼は寮に帰って食べることになりました。





「食べまくろう」


 いつもそういうふうに会話にならないところから、ご飯の話題になります。


「お昼に玉子食べる?」


「玉子ご飯がいい」(ランチパック参照)


「玉子かけご飯でしょ?」


「え?」


「ご飯に、玉子をかけて、調味料で食べる」


「ごめん、それ忘れて。火は通したのが食べたいなー」


 おもねるような飯塚君に、初彼女の飯田さんはくるり、と目をまるくして応じます。


「しょうがないなあ」


 悪いけど、笑っちゃう。


「へへっ。楽しみー」


 おやおや。


「楽しみだなんて」


 私の腕前に期待するなよー? と内心冷や汗たらたらの飯田さんです。


 失敗したらどうしよー? あきれられちゃうのは嫌だなあ。





 キッチンにて、冷蔵庫をじろじろのぞきこんでいる飯田さん。ここは男子寮。ご飯は飯田さんち経由でタッパーにて持参。


「なにいってんの。玉子はゆで玉子ランチが一番だよね」


「お姐さん?」


「違うわよね? いきなりスクランブルエッグとか言わないわよね?」


 さっきから話が食い違っててもめている……。


 瞬間的に、飯塚君、


「それ、それ、それおくれ!」


 でたー! 絶対作らないヤツ。


「意味不明ー」


 飯塚君は言いつのります。


「それが好きなんだよ。噛まなくていいやつ。バターの味とマヨネーズをあえてあるやつ」


「ガーン。お料理仙人出てきて――」





『頑張っているのう?』


 疑ってる感じだ。


『お昼にランチパックの玉子ごはん?』


「うん、玉子ご飯。作ったことないのよねー」


 永遠に作りません。(BY作者)


「というのは冗談でー……」


 飯田さんは意外。あまりの期待の大きさにおののきます。





「いつも焦がすから面倒くさくて。お料理仙人、どうしたらいい?」


『火を小さくして、バターを適量にすることがコツじゃ!』


「へえ……焦がすんだ?」


「はわあ!」


 こっそり尋ねたのに、お料理仙人のいばった一言に、飯田さんは面目丸つぶれです。これはキツイ。


 お料理仙人はギューッと口を左右に引っ張られました。


「もお、シーッ、シーッ!」


『ひひゃい、ひひゃい~~』


 他人事のように飯塚君が言いました。


「お料理仙人が痛がってるよー」


 どなたのせいかしら?





「彼が作れと言ったから……つーか、スクランブルエッグが食べたくて!」


「彼氏とかいるの?」


「うん。いるから聞くけど、歴代の彼女はどんなスクランブルエッグを作ってくれたの?」


 私の彼氏はおまえだおまえ。げんこつするわよと年上のお姐さん……飯田さんはいいました。


「俺に聞くなよー。作り方ぐらい、勉強したろ? 小学生のとき」


 聞くなと言われても……。こちらはなんとツれないそぶり。


「むうー。裏切者!」


「休み時間がなくなるぞー」


「あんたのせいでしょー!」


「はーい。人のせいにしなーい」


「どっちがー!」





 作ればいいんでしょ、作れば。


「最初から作ってよ」


「しかたないなあー」


 え? しかたがないから作ってくれるの? という問いかけには、当たり前じゃんと飯田さんにっこり。


 フライパンでなぐったろか。と内心は思うのですが。





 <レシピ>


 スクランブルエッグ





 1、ボールに玉子二個と牛乳大匙一杯と塩少々を開けてかき混ぜる。


 2、フライパンにバター適量入れ、中火で溶かす。


 3、バターが半分くらい溶けたらボールの中身を流し入れる。


 4、木べらで空気を抱え込むように、卵を大きくかき混ぜる。


 5、少し柔らかすぎる? と思ったところで火を止めると半熟にできます。


 ※ピザ用の溶けるチーズを、玉子に混ぜてから焼くと、トロトロに仕上げられます。火は、くれぐれも強火にはしないこと。





「子供のように教えてもらったわ」


 本音は……私にもできたー! って叫びたかったの。


「初めはだれも子供みたいに学ぶもの。学ぶ限りにおいては、いつまでも子供のようなものだねー」


 いつになく得意気な飯田さんです。


『それでは、末永く幸せにごはんごはーん』


 お料理仙人はご飯の湯気と共に去りました。


「本人乙」


「本人乙ってなに!?」


「作者に言ってくれる」


「それなら作者乙、でしょ?」


「作者乙!」


 傷口に塩を塗るマネを……。


 生意気な一言でした。


 だれがへたくそよ!

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