お二人様からのおいしいご飯

水木レナ

第1話君といつまでも♡


「なに言ってんだよ! 誘ったのはそっちだろう」


 飯塚君は怒りん坊。お腹がすいているのでしょうか。


「男がご飯おごるのはあたりまえでしょう?」


 おやおや、一組のカップルがもめています。飯塚君と飯田さん。打算的な二人です。


「急にご飯作ってくれなんて、あんまり図々しいこと言うと、嫌われるわよ」


「嫌われるほどのことじゃない。まてまて、さてはおまえのような美人の飯はまずくてまずくて食えないとかマジテンプレかよ」


「褒めてくださってありがとう。モテるわよ、私」


 女性の方が家に帰って気がついた。


 恥ずかしいけど、自分は自分自身で生まれて初めて、誘ったのにこんなところでつまづくなんて。


 彼女はご飯を作りました。自分だけのために。


 朝からよく炊けた白米ご飯、味噌汁はアナクロですか?


 知らんぷりを決め込みながら、要するにぽちゃっ子の彼女はちゃんと気にしていたのです。


「私の料理、おいしいかな……?」


 無理無理。


 彼女はもちろん、お手伝いくらいしか料理の経験がないのです。


 お料理仙人に現れてもらいました!


『未熟者が! まずは漬物から!』


「え!? 漬物?」


 彼女は冷蔵庫から沢庵とそれからそれから、カップ麺をとり出しました。


『カップ麺か……うむむ、悪くはないが』


 最近のカップ麺はヘルシー路線。しかしお一人で困ることもあるかと思います。


「失礼な」


 もうちょっと料理をしましょうよ。必ずおいしいものが作れるレシピがありますから。





 いつまでもいつまでも引きずってうつむいていた飯塚くんは彼女の家を見上げてブツブツ言います。


「なんてことだ……言葉のあやとはいえ、イケメンの俺が聞こえるくらい腹を鳴らすとは……ええい、もう一度だけ……」


 飯田さんの名前を呼びました。


「ん、だれか呼んでる?」


 飯田さんが出てこないので、思い出したように飯塚君。


「ふざけんな。俺に飯をくわせないか!」





『案ずるな。一通りのことをやってから……』


 恋愛相談中の飯田家の中。お料理仙人、頑張っている――。


「絡みついてくるわけよ、男って」


『うむむむ……隙があるわけじゃな、つまり』


「私だって最初は真心のこもった逸品を作ろうと、懸命だったわ」


『作ればいいじゃないか』


「他の女のところでも、うんうんおいしいといって食べてんだろうと思うだけで結婚詐欺を疑いたくなるわけよ。あの人がそうだとはいわないけど」


『いろいろあるんだのう』


「一生懸命作っても、気取りがないのもなんだし」


『そんなおまえにプレゼント』


「いちいちうるさいわね」


『けど持っていると落ち着くぞ』


「ごめんなさい、もう持ってる【おひとりさまからのおいしいご飯】」


『寂しいご飯だのう』


「お姫様のように自分がいつまでもいつまでも【おひとりさま……】から抜け出せないのが欠点よ」


「自分の方が向いてるからご飯作ってる感じだったのに」


「あたりまえじゃないの。ゆっくりご飯食べるごとに親密度がアップするから試してみたけど、自分はさっぱりのくせに文句ばっかり言うのよ、あの男は」


 むむ、飯塚さんのことですね。すねかじりのくせに生意気なんだよ、とよく言われています。


「減らず口を言っているうちに、疎遠になりました」


『ちょっと待て。わがままなのはどっちなんだ?』


「ご飯つくりたくない――」


『命そのものがわがままなんだからのう』


 どちらのお姫様ですか?


「ご飯が炊けましたー」


『同じご飯でも自分の作ったご飯は格別においしいぞ』


「いただきまーす」


 恋愛がどうしたと聞いてみることにいたしましょう。





「どうしてうまくいかないの?」


「君の責任」


「責任ってなによ?」


 うちとけない関係はご飯の作り方と同じやり方でまとめましょう。


「十年間誰にもいわないと誓ってよ」


「少年老い易く学成り難し。料理の腕も同じこと」





 おいしいおいしいご飯の作り方。


 <レシピ>


 白飯(米飯)


 1、まず米を二合、ボールに入れて水を注いでさっとまぜ、最初の水はすぐに捨てる。あとはとぎ汁が澄んでくるまで水を替えながら洗う。(手のひらのふっくらして部分でキュキュッと研ぐ)(米は吸水しやすいため、最初の水はすぐにすてないと、とぎ汁のぬか臭さが浸水してしまう)


 2、研いだ米を電子炊飯器に入れ、メモリ2に合わせて水を入れ、夏場は三十分、冬は一時間、浸水させる。(研いだ後の米はすでに浸水しているため、水は米と1:1で十分おいしくできる)


 注意点;一合は180㏄、一カップは200㏄。二合の米(360㏄)には同量の水を入れること。





「なるほどなるほど、なるほどね」


 個人的に言えば、雑穀米はどう炊けばいいのかな?


「雑穀米には雑穀米の炊き方があるの?」


『そんなことは米が炊けるようになってから!」


「はい、そうでした」





 コンコンコン、戸をたたくのは飯塚君。


「ごめんごめん、捨てないで?」


「誰が捨てるのよ、朝ごはん、食べてくでしょ?」


 さんざん仲良くなってくれたでしょう。





 今朝の逸品は「おいしかったで賞!」





「で、ご飯だけなの?」


「ご飯だけでしょ!」


『え? これはうれしいご飯ですね』


「ね、仙人様の言う通り」

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