第3話
スマホを放り出して、男の腹に蹴りを入れた。男は握り拳を乱暴に振り回して僕から距離をとった。
すかさずジャンバーの袖のたるみを掴んでひきよせ、手首を握りしめた。抵抗が緩まったところで、上に振りかぶった。握りしめたジャンバーが爪に引っ掛かり破れてしまった。そのとき、男の血管を少し傷つけたようで、親指をつたってくる赤黒い血に、不気味さを感じた。
強く、さらに強く、男は腕をふりほどこうとするための、肩を外すかもしれない位に振り回した。
右足をもちあげて、膝を前に突き出した。膝を中心に踵と尻で扇型を作る。より鋭角になるように膝を高くあげて、僕のバランスと柔軟性から決まる限界まで到達した。そこで、膝に腕を叩きつけた。
アとガの間の、喉で空気を絞り出すようにして発声される、人間の出せる声のうち美的価値が限りなく零に近く、メタルで多用されるシャウトとは似て非なる、呻き声が響いた。
その時、誰かがシャッター音を鳴らしていた。僕は、音のなった方に向いた。
人の群れができていた。数人のサラリーマンと、酔った大学生と、先ほど男に蹂躙されていた人と同じ格好の女性がいた。
幸いなことに、スマホを掲げて撮影していたのは、僕より小さな掃除婦であった。
痛みに負けるな 古新野 ま~ち @obakabanashi
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