戦闘

―――召喚国境界線地域



 クソ、とんでもないことになってしまった。


カリス王国使節団長、ハビルは砂だらけになりながらそう呟いた。


上等な服で身を包み、優雅に出発した使節団の姿は既に無い。


あるのはただ、草むらに伏せた情けない男達の姿だった。


こうなってしまった理由はまさしく今目に映っている、カース帝国軍の大軍である。


王都は着々と包囲され、使節団出発直後には、召喚国に通じる最後の国境地帯も敵の手に落ちた。


もはや道を堂々と歩くなどは夢のまた夢。


気配を消し、夜闇に隠れて進むほかなかった。


普段なら半日で済む距離を、丸2日がかりでやっとここまでたどり着いたのである。


そしてその結果がこれだ。



カース軍はざっと1000は居るだろうか。


あれだけの大軍の間を、見つからずに進むのはまず無理だ。


ハビルは途方に暮れていた。


奴等の狙いは召喚国を攻撃することだ。


ともすれば、もうすぐ攻撃が始まるだろう。


召喚国が奴等を蹴散らせば御の字、せめて乱戦になってくれれば、その隙をついて行くこともできるだろうが・・・


しかし、噂では召喚国はヒューマンの国らしい。


期待できるかどうか・・・




そんなことを考えていると、グォーという独特の不気味な音が聞こえた。


カース軍の攻撃信号だ。


それと同時に男達の物凄い雄叫びや足音が聞こえてくる。


砂煙が巻き上がり、ここが戦場になる、という実感をハビルに与える。




不意に、なにか甲高い音がしたと思った次の瞬間、聞いたことのない轟音が響いた。


いくつも爆発が起こる。


雄叫びが悲鳴に変わった。


今度はなにか連続で乾いた音がする。


続いて唸るような響きが聞こえた。


その音に合わせて、カース兵達がバタバタと倒れてゆく。


さらに爆発。


あの勇猛と謳われるカース軍は今や、悲鳴を上げながら逃げまどっていた。


たった数分前まであれだけ居た軍隊は、最早見当たらない。


さっきまで生きていた兵士たちの体は無残に飛び散っていた。


半狂乱で立ち尽くす兵士。


泣き出す者、茫然と座り込む者。


離れているハビル達でさえ鉄臭さを感じた。


これでは戦場というより、まるで虐殺だ。


我々はとんでもないものを召喚してしまったかもしれんぞ・・・


ハビルは心からそう思った。

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