万年底辺作家が閲覧数とレビューを獲得するためには

高柳神羅

第1話 類とアオイ

 僕の名前は川崎類。六条葵という名前でWEB小説投稿サイトに小説を投稿しているアマチュアの小説家だ。

 ……いや。大層なことを言ったのは謝ろう。僕は決してそんな立派な存在ではない。

 何故なら、僕は鳴かず飛ばずの作品しか書いたことのない万年底辺作家だからだ。

 作品を投稿しても閲覧数は伸びない。レビューも付いた例がない。感想は……まあ貰ったことはないとは言わないが、貰えるのはごく稀のことだ。

 ──無論、ただ作品を投稿して見ていただけではない。皆に僕が書いた作品を読んでもらうために、できる限りのことはしてきたつもりである。

 自主企画には可能な限り参加した。作品の宣伝もした。作品に興味を持ってもらうために、作品のタイトルやキャッチフレーズは気を遣って人の興味を惹くような言葉を一生懸命に考えた。

 人気作品を書いている他の作家の作品を読んで、どうすれば人気が出るのかを研究したこともある。

 ……それでも、運が悪いのかそれとも才能が元々ないからなのか……僕の書いた作品が日の目を見ることはなかった。

 心が挫けそうになった。

 何度、もう小説を書くのをやめようと思ったか分からない。

 そんな時だった。僕の中に、奴が現れたのは。


「そんなに気を張ってないでさ、肩の力を抜きなよ」


 それが、僕の中に住むもう一人の僕──アオイとの出会いだった。

 アオイは僕の胸中の葛藤など全てお見通しだとでも言わんばかりに、僕のすることを観察しては好きなように喋った。

 まるで僕専属の評論家にでもなったかのように、僕が小説を書いている様子を見てあれこれと口出ししてくるのだ。

 僕はそれを、鬱陶しいと思っていた。

「お願いだから黙っててくれよ。今一生懸命に小説書いてるんだからさ」

「何でそんな一生懸命になって小説書いてるのさ」

 馬耳東風だ。こっちの言うことなど全然聞いちゃいない。

 僕はパソコンのキーボードを懸命に叩きながら、言った。

「何でって……小説家を目指してるんだから、書くのは当たり前だろ。評価されるような作品を書かなくちゃ、小説家にはなれないんだから」

 そう──僕には大きな夢がある。

 小説家になりたいという夢だ。

 きっと同じ夢を持っている奴はごまんといる。そんな彼らを追い抜いて、名の売れた小説家になりたいと思っているのだ。

 そのために、僕は小説を書いている。

 書いた作品にレビューが欲しいし、閲覧数も伸びてほしいと思っている。

 そう考えて当たり前だと思わないか? 作品の人気が出ないと、プロになるのは夢のまた夢なんだから。

 アオイは小首を傾げたようなニュアンスで、言った。

「類は人に評価されたいから小説を書いてるの?」

「そうだよ。何を当たり前のことを今更訊いてるんだよ」

「それってさ」

 アオイは疑問をぶつけてきた。ストレートに、あっけらかんと。


「評価されるために書くものなの? 小説ってさ」


 ぴたり、とキーボードを打つ僕の手が止まった。

 僕は眉間に皺を寄せて、問い返した。

「は?」

「類は何のために小説家になりたいの? 人に評価されるため? ……それってさ、何か間違ってるって僕は思うよ」

「…………」

 何のために小説家になりたいのか。

 そんなことなど──当たり前すぎて、逆に考えたこともなかった。

 でも。

 僕にも、今の僕を作る始まりがあったはずなんだ。僕が小説家を目指そうと思ったきっかけが。

 それが何だったのかは今となっては思い出せないけれど、とても大事なことなんじゃないかって思う。

 僕は……今、何のために小説家を目指しているのだろう?

「評価なんてさ、欲しいと思って貰えるものじゃないじゃん。そんなものは後から勝手に付いてくるものなんだよ。それを躍起になって欲しいなんて騒いだってさ、野良犬の馬鹿な遠吠えになるだけだよ」

 アオイは苦笑した。

「その肩に入ってる力を抜いてさ、もう一度、考えてみなよ。自分が何で小説を書いてるのか……それを思い出したらさ、きっと今書いてるものよりもずっといい作品が書けると思うよ」

「……自分が何で小説を書いてるのか……」

「考えて悩むことくらいになら、付き合ってあげるからさ」

「…………」


 ──僕は。

 前を見続けてがむしゃらに突っ走り続けていたせいで、大事なものを落としてきてしまっていたことに気付いていなかったのかもしれない。

 もう一度、腰をゆっくり落ち着けて考えてみようと思う。どうして僕は今、小説を書いているのかを。

 その答えが出せたら……きっと、今までにない素晴らしい作品を書けるような、気がする。

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