もしあの日の私に出会えたら,その胸の高鳴りの正体を証明してあげる
誰にも言えない,約束ができてしまった.
それが,大人に憧れていた10代の私には,
とても魅力的に,思えていた.
思えて,しまっていた.
誰に指摘されたわけでもないけれど,
イケナイコト の自覚は少なからず,あった.
けれど,それこそが余計に魅力的だった...
”一人暮らしの,男の家に,ふたりきり”
ワクワクしていたんだ.
一晩過ごす中で,あの人とどんなお話をするんだろう.
夜ご飯はどこに連れて行ってくれるんだろう.
もしかして,ドライブデートとか,できるのかな.
パジャマ,新しいの買っちゃおうかな
いっぱい,笑ってくれるかな...
付き合ってもいないのに
好きだ,と,言われたわけでもないのに
はじめてのお出かけが,相手の家
それがどういうことか,知る由もなしに.
高校生の私は,
好きな人と会える喜びだけでは物足りず
誰が決めたわけでもない"オトナ"への
強い憧れに,夢中だった.
約束の日が,来た.
親には,文化祭の都合で友達の家に泊まる,と伝えていたから
怪しまれることなんて全くなかった.
ただ,いつも通り,優しい声で
"いってらっしゃい,文化祭,楽しんでね"
と,送り出してくれたの.
ごめんなさい,お母さん.
あの日,私は,お母さんに嘘をつきました.
お母さんお父さんが,大切に育ててくれたのに.
きっと愛情ある人と出会って,幸せな恋をしてほしいと,
そう思っていてくれたはずなのに.
あの日,ふたりを裏切っていただなんて
そんなこと,気付きもしなかったの.
文化祭中,気が気じゃなかった.
lineをひらいては,メッセージを送り合って.
「文化祭が終わるころに,迎えに行く」
きゅっ,また心臓が反応する.
迎えに,来てくれる.
車に,乗せてくれる.
こんなオトナな経験,したことない.
好きな人が,車で高校まで迎えに来てくれるなんて.
同級生の中の,いったい何人が,
そんな経験,したことあるだろう.
自慢,したくなった.
周りと,私は,違うんだ.
私は,いま,”オトナ”なんだから.
今思えば,ばかげているなって,
そう感じるの.
あの人を好きだと思っていたことは
確かなこと.
けれど,私が幸せに感じていた正体は
”好きな人に会える”ことじゃなかった
”好きな人が,オトナな経験をさせてくれる”こと
”憧れのオトナに近付けていた”こと
ちゃんと考えれば,気付けたのにね.
本物の幸せを,ちゃんとわかろうともしないで
本物の幸せに,なりすました 過ち に,囲まれていたことに
あの時の私は,そんなこと気付きもしないで.
”気付いていたけれど”,向かい合うのを嫌がって
きゅっ
誰も証明してくれない胸の高鳴りを,
何度も何度も繰り返していたの.
私の中のあなたが消えてくれないので、いっそ小説にしてみようと思いました。 いづも @namaehaizm
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