振り返ればこの時にすべてが決まってたって,そう思うの


「いづちゃん,めっちゃおもしろいな」

「line交換しよ,ID教えてや」


あの日出会って以来,何かと私を気にかけてくれる,関西弁の,5つ年上の男性.

てっきり関西出身なのかなーと思ったら,地元はむしろ東より.

全然関西弁関係ないじゃん....


「大学行くといろんなやつおるねん,そこに関西弁喋るやつおってな,4年一緒におったらうつっとったわ」


あまりにも普通に関西弁をつかうものだから,地元に帰った時に違和感感じないのかな...,なんて,思ったりもした.

それに時々名古屋弁も混じっていて,もう何が何だかよくわからない言葉を話す人だったなあ.


lineを交換して,何度かメッセージを送り合っていたある日,はじめましてからもうすぐ一ヵ月の頃,あなたは私に魅力的なお誘いをしてくれた.

「せや,いづちゃん,今度宅飲みしよ,俺の家で.実は俺一人暮らしやねん.バイトのやつら他にも何人かで計画してん,いづちゃん皆と仲良うなりたいやろ」

「宅飲み!?...って,なに?」

「いづちゃんそれまじか!若いなあJK.家でお酒飲も,って意味な,まあおこちゃまはジュースやけど」

「おこちゃまちゃうわぁ」


宅飲み...楽しそう.

当時は私は高校生.

宅飲み,一人暮らしの誰かの家で,朝まで,はしゃぐ.

それはとても魅力的で,普通の高校生には経験できない魅力.

そんな魅力的なお誘いを断る理由なんてもちろんなくて,

他の先輩たちもいるなら,尚更楽しそうで


「行きます!!」


そう,こたえたの.





だけど,結局お断りした.

高校は休めないから,大学生の先輩たちと日にちが合わなかった.


「行きたかったです,すごく残念で...」

しょんぼりした気持ちでバックヤードにいるあなたに声をかけると,予想外の返事が返ってきたの.


「せやったらいづちゃんだけ別日に遊びくればええやん,俺家帰っても一人やで毎日めっちゃ暇やしさみしい思いしてんで?」



きゅっ,と,胸が,高鳴った.

はじめて会ったとき,目がなくなるほどきれいに笑うあなたを見たときも,こんな気持ち...だったのかもしれない.

これは,この胸の高鳴りは,高校生の私でも,わかる.


だけど,本当に”それ”なのか,ちょっとまだ確信がないなあ.

だって5つも年上だし,はじめましてから,まだ1か月経ってないのに,まさかそんなわけ...

自分の胸の高鳴りを,気付きつつも無視して,あなたとの会話を続ける.


「何言ってるんですか.本当に行きますよ,わたしひとりで.」

「こればええやん.俺いづちゃんともっと長く話してみたい思ってたところやし」


きゅっ,

ほら,まただ.


「もうー,お世辞なら今ちゃんと言わないと,行っちゃいますからね!日程決めだすころに逃げ出さないでくださいね.」

「ほんまに来てほしい思ってんのに.なに心配してんのや」


はは,と,笑う.

あ,また目がなくなっちゃった

きゅっ,

ほら,まただよ,その笑顔に弱いんだなぁ

もうわかったから,いい加減認めるから,心臓,落ち着いてよ


「俺と2人が嫌やったら,バイトの女の子好きな子誘ってええで」

「あ...」


その言葉を聞いたとき,ふと冷静になった.

そう,だよね

高校生だけど,ちゃんと考えれば,私にだってわかる.

相手は, 男の人 ,ってことくらい

だけど...


「ふたり,で,大丈夫です.」

自分でも何言ってんだって,思った.

その返事が,行動が,危ないことだってことくらい,わかってたんだ.


けれど胸の高鳴りに気付いてしまったあの時の私は,このチャンスを,逃したくなかったんだ.


「ならふたりで過ごそ,お酒は俺だけになるけどな.」

またキラキラと,あなたは,笑った.

-あれ,おかしいな.

自分では意味が分からない,大胆な返事をしているつもりでも,あの時のあなたは意外にも普通の態度だったなぁ.

-大学生なら,こんなこと普通なのかも...幼いんだなあ私.

自分の中でそう決めつけて,笑顔のあなたに私も笑顔を向けた...


「いつ来る?もう高校始まるやろ?」

「あ,じゃあ,9月のこの日はどうですか?」

私が提案したのは,高校の文化祭1日目.

1日目の夜なら,2日目のために友達の家に泊まるって嘘がつける.

親をごまかせる…

我ながらに頭の回転早いなあ,なんて,のんきに思った.

親にごまかさなきゃならない案件だっていう自覚は,あったよね,当たり前だけど.


「ええで!楽しみやな,お菓子かっとかないかんな」

「はは,お菓子って,子供みたいな」


少し不安はあったけど,それよりも長い時間あなたと一緒にいたかった.

大丈夫.

好きじゃない子相手に,そんなことする人なんか,みたことないもん.

ましてや相手は大人なんだから,気にしすぎだよね.

さっきだって私一人で泊まりに行くって言ったって,微動だにしなかった.

きっと大学生なんて,こんなの日常茶飯事なんだから.

オトナに,ならなきゃ...


「楽しみに,してますね」


私のその返事と同時に,きゅっ,

またあなたの目がどこかへいっちゃったの

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