幸せな選択。





「春田さんは、こういうの大丈夫ですか?」


「うん。俺彼女いないから。」


「えーーー、それほんとですか?」



 絶対嘘だ。と半ば確信くらいの自信で疑いの目を向けた。



「七生さん、本気で信じてないでしょ。ほんとだからね。去年の11月、別れちゃったよ。」



 …ほぉ。5ヶ月前…


 たしかに、澤野さんとの付き合いが今まで以上に良くなっていた気がしなくもない。


 クリスマスも会社の人と合コン行ってたって噂聞いたな。




 …ということは、6年近く付き合った女性ひととほんとに別れたのか…



「…もう元気ですか?」



 ふと、変な質問をしてしまった。


 一瞬春田さんが、本当に寂しそうに見えたから。



「んー。そうだね!もうわりと平気!

 七生さんこそ、早く仲直りしないとね」


「…うーん。もうお別れ秒読みって感じですよ!業務連絡のようなLINEしかしませんし。…そういうのってなぜかわかるじゃないですか。」




 友貴は、本当に良い子で。


 嘘とか、曲がった事が本当に嫌いで。



 他人に不必要に首を突っ込んで、


 不満を漏らして、そういう子供っぽいところが嫌だなーとたまに思うことがあって、



 ただ、結婚するならこういう人がいいな。


 この人とずっと一緒にいたら、わたしはずっと平穏に暮らせるんだろうな。


 と思えるくらいわたしに甘くて、優しくて。



 なんでも話せる相手。



 でも、なんでも話せすぎちゃうことも問題で。



 わたしはよく友貴に

『自分の幸せに一番貪欲になれるのは自分だから、思ったことには素直に生きたいと思ってるよ。』って話をしてた。



 結婚も、友貴が就職して、次のわたしの誕生日で籍を入れようって話もしてた。



 でも、去年のわたしの誕生日。


『さゆは、自分の幸せに自分が一番貪欲だってよく言ってるけど、それって俺が良いところ就職できなかったら、俺との人生は選ばないってことだよね』



 ふと、友貴からそう言われた。



『…良いところに就職できないとわたしは幸せになれないの?』


『そりゃそうじゃない?共働きでいなきゃいけないし、遠方に転勤になったら側にもいれないし、土日休みじゃないとさゆと休みも合わせられない。』



 …わたしにとっての幸せってなんだろう


 その時初めて強く考えた。



 そりゃ、旦那さんの稼ぎは多い方がいい。


 福利厚生はいい方がいい。


 土日休みで、地元は離れない方がいい。



 友貴はそういうところに就職できないかもしれない。


 そうしたらどうするのかなんて、わたしにはわからないけど



『…そしたらきっと、その時の最善を選ぶよ』



 その時すぐにはわからなかったけど、


 家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、ずっと考えて、


 涙が出るくらい悲しくなった。



 わたしの幸せは、友貴と一緒にあるものだって


 伝わってるものだと思ってた。



 遠方になったら着いていくし、


 お金だって、別に一緒に働けばいい。


 平日のお休みを、合わせればいい。



 ただ一緒にいることを、


 隣で馬鹿やって、顔合わせて笑うことを、幸せだと思ってたのに。



 友貴はそうじゃなかったのかな。


 普段何でも聞くわたしが、初めて怖くて聞けなくなった。



 そこから、全部無駄だったような気がして


 距離を置くようになった。






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