変なところ。




「七生さん今日カラオケ飲みだよ」



 ある日の仕事終わり、片付けをしていたら先輩の澤野さんからお誘い。



 カラオケ飲みとは、その名の通り職場の仲の良い人達で集まってたまに開催されるカラオケ会のこと。


 主に先輩の気分で開催が決まる。(笑)



「わかりました!メンバー誰です?予約しときます!」


「ありがとー!課長と中川と福嶋と春田と俺と海原さんと佐藤と七生さんで!」



 飲みと言っても、わたしはお酒がかなり苦手なので主に2年目の先輩が犠牲になる流れが出来上がっている。



「(春田さん来るのか…!)」



 たまに来ない日もあるので、名前を聞いて少しだけ嬉しくなる。



「予約とりました!」


「ありがと!」


「…ちゃんと大きい部屋でとった?」


「とりましたよ!」



 行くのだるそうな顔をするくせに、毎回部屋の確認をしてくる春田さん。

 小さい部屋は盛り上がりに欠けるから、何となく嫌らしい。





 ◇◇◇




「澤野さんいつもの入れますよー!準備いいですかー」



 カラオケと言っても、主に盛り上げ役の澤野さんと福嶋さんがマイクを握る。



 私や春田さんの番はたまにみんなの休憩中に回ってくる程度だ。




「(…春田さんまた携帯いじってるなぁ)」



 こういう集まりの時、春田さんは大体隅の席。


 たまにタンバリンを叩いたり、マイクを持ったりするけど、

 スマホを握りしめていることが多い。




 …つまんなそうにするなら来なきゃいいのに。



 まぁでも、澤野さんと仲良いから来たいのかな。


 仲間外れは嫌なのか?…案外面倒くさいタイプなのかも。




 たまにちらっと見えるLINEの画面の先を想像しながら、彼女なのか、セフレなのか、はたまたその別の〇〇フレンドなのか。



 春田さんはいつのまにか、私の妄想の中のチャラ男の代表になっていた。





 ◇◇◇





「てか、春田最近彼女とどうなの〜?」



 カラオケの最寄り駅まで歩く帰り道で、突然澤野さんから飛んだ質問。



「……変わらずですけど」



 何となく耳を傾けてしまっているだけなので、後ろにいる先輩方の表情は見えないけど、


 不機嫌そうな春田さんの声と、面白がっているような澤野さん達の声。




『変わらず』ってことは、やっぱり噂通り彼女はいるんだな。




 春田さんには5年以上付き合っている恋人がいる、という噂を入社したばかりの時に聞いた。




「お前が変なとこばっか行ってるからだろ~」


「澤野さん人の事言えませんよ」


「こらこら七生さん盗み聞きしない。」



 聞き耳を立てていたわたしの視界に、にゅっと海原さんが映り込んできた。




「あ、バレてましたか。」


「すごい後ろに意識集中してたよ(笑)」


「…変なとこってどこですかね」


「合コンとかそんなんじゃない?相変わらず遊んでんだよきっと」



 しょーもないね。と言わんばかりに教えてくれる海原さんは、とてもあの人達より年下には見えない。




「なんか、真面目に生きてるのバカバカしくなりますねあーいう男性陣を見てると。(笑)」


「まぁでも人には女しか寄ってこないんじゃない?」




 …海原さんごもっとも。



 わたしは深く頷いた。



「異性に対してそこまでアグレッシブになれるのってすごいですよね…何人もなんて絶対疲れますわたし。」


「そうだねー…ああいう人達にとっては遊びだからね。感覚が違うんでしょうきっと。」




 じゃあ私自身は、異性に対して積極的じゃないのか、と聞かれるとおそらくそんなことはない。



 優しくされると、おっ。と思うし、


 好きな人ができると、すぐに好きと伝えたくなるし。



 ただ、そういう相手を求めて出会いの場に行ったりすることは無い。




 多分そこには人それぞれの色々な考えがあるんだろうけど、


 出会いに行って気持ちが生まれるんじゃなくて、そんなつもりがなかったところに生まれた気持ちの方が、私は何となく肯定できるから。



 ましてや、楽しむだけのためにそういう場に行くような澤野さん達の感覚は本当にすごいと思う。



 気のしれない人達とその場限りの付き合いなんて、私は絶対疲れ切ってしまう。




「私だってそうだよ。でも私みたいに好きな人が本当にできない人は数打つしかないのよ。」



 前にこの考えをポロッとこぼした時、海原さんが苦笑しながら私に言ったことがある。



 海原さんは好きな人ができない人。



「わたし恋愛体質なので海原さんと考え方が違うこと多いですけど、春田さんみたいな人は好きになっちゃダメって思ってるのは一緒ですね。」





 私の言葉に、今度は海原さんが大きく頷くのだった。






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