flow

 初めて彼の唇の裏に刻まれたタトゥーを見たとき、某五人組ロックバンドの名前かと思った。「ファンなの?」と聞くと彼は「全然」と笑った。

 足首にも三本ラインが入っていて、シーツの間からのぞくそれをなぞっては「くすぐったい」とよく怒られた。


 ある日帰宅すると、彼の荷物が消えていた。

 スマホには「ここに行きます」とマップのURLだけが送られてきていた。

 地名を検索して、結果を上から順に開いていった。海外生活に慣れていない人も住みやすい街、と書かれた知らない誰かのブログを見つけて、なぜかほっとした。

 途方に暮れたまま、送られてきたマップを眺めた。三本の川が流れるその街は、私にとって現実味のない、遥か遠くの街だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

300字SS集 ささなみ @kochimichiko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ