影の気持ち

「ね~、影の気持ち考えたことある?」

 ライブの直前で皆が緊張しているというのに、花南かなんがまた変なことを言い出した。

 語尾を間延びさせる、甘えた喋り方が鼻につく。いい歳してそんな喋り方ができる神経を疑う。

「はぁ?」

 声出しを邪魔されて、私は不快感をもろに顔に出した。

「だから~、私らの新曲のサビよ」

 影の中立ち上がれ いつか光輝くから、と口ずさむ横顔は楽しそうで、からたちのように刺々しい感情が胸に湧く。

「ほら~、影が負で光が正みたいな風潮。光が影を引き立てるのに」

「意味わかんないし、あんた見てると正直イラつく」

 きょとんとこちらを見返した彼女は、

「それはあなたが光で、私が影だからよ」

 私の敵意を鼻で笑い飛ばした。

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