夢の外へ

 夢ってどんな感じだったろう。

「現実には数時間でも、夢の中では数年だったりするよ」

 話しながら、妻が熱い珈琲を淹れてくれた。

「いいね。僕は人生を損してる気がする」

「見ないほうが幸せかもしれないよ」

 その言葉で気づく。ああ、今見ている、これが夢だ__絶望とともに、ふっと身体が浮き上がる感覚。白い天井。


 明晰夢の数時間は、現実にも大体数時間だ。

 脳腫瘍の治療のために埋めた電極が発生させる交流電場のせいで、明晰夢を見る。

 妻はとうに看護疲れで死んだ。夢に逃げ、目覚めるたび絶望感に襲われる。それでも、と続けるうち、夢と現実の区別が不安になっていく。

 確かに見ないほうが幸せかもしれない__ふっと身体が浮き上がる感覚。

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