霧の街

 ぼぉお……。

 霧笛がきこえる。シャリオンはハンモックをぎしりと揺らして身を起こすと、霧のかかった港町を見下ろした。

 最近、霧の深い日が増えた。何か良くないことが起こっているのは、友人のいないシャリオンでも分かる。人が消えたとか、塔の外壁が崩れたとか、街の人々がひそひそと暗い噂話を交わしているところを、もう何度も目撃していた。

 自らの朱い髪の毛を恨めしげに引っ張る。とうに諦めたけれど、やはりこの髪の毛がなければ噂を教えてくれる友人もいただろうに__と思ってしまう。

 ため息を吐いて、再びハンモックに身を横たえた。もういっそ、髪の色も隠すほどに霧が濃くなれば良いのに。寝返りを打って、霧の中に意識を溶かした。

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