秋になったら

『秋になったらまた来ようよ』

 新緑が眩しい木陰で君がそう言ったのは、ほんの数ヶ月前だった。

「ねぇ、もう紅葉してるよ!きれい!」

「そうだね」

 君はどこかうわの空で、街路樹を指差して声を弾ませる私の髪を撫でる。

「可愛い」

 私の大好きな顔で、私の大好きな声で、君は囁く。だから私は微笑んで、もう一度はしゃいでみせる。

「可愛い?ふふ」

 __知ってるんだよ。他の子にも言ってること。

「ねぇ、秋になったら紅葉見に行こうって言ったの覚えてる?」

「覚えてない」

「もー、すぐ忘れるー」

 恋に浮かれる、可愛い馬鹿な私。君の心が私になくても、まだ、君といたいから。

 じっとりと纏わりついて息苦しい幸福の中で、私ははしゃぐ。ふりをする。

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