近くて遠い

 何でも好きなものを、と彼が言うのでソーダフロートを頼んだ。

 「航空管制官の試験は」

 「落ちました」

 二度目の挑戦だった。

 「それは、悪いことを聞きました」

 大丈夫ですよと微笑んで展望デッキから見える機体に視線を投げる。もちろん嘘だ。

 彼はとっくに自社養成パイロット採用試験に合格したのに、私ときたら。


 「こんな時に何ですが……。付き合ってくれませんか」

 しばらくソーダを挟んで向かい合う沈黙が続いた後、彼が口を開いた。

 「聞こえませんでした」

 少しの罪悪感。今はまだ、大気を切るブレードの音のせいにさせて下さい。

 「来年私が合格したら、もう一度言ってもらえませんか」

 空に溶ける白をすくう。

 同じ場所に、行けるようになったら。

 

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