愛と悪夢

――「向こうで、待ってる」

青年は優しい微笑みを浮かべ、静かに目を閉じる。

「嫌だ!行くな!」

私の右手は虚しく空を掴み、青年の肉体は、硝子細工よりも美しい、一輪の白い花になった。


「置いて行かないでくれっ!」

悲痛な叫び声と共に、無骨な指先が左腕にきつく食い込む。


震える男の身体を抱き寄せ、あやすように、その頭を撫でた。

「俺はまだ、ここにいるよ」


「とても辛い、悲しい夢でした」

俺の存在を確かめる唇の、乾いた感触。

決して拭えない、罪の味が、した。


好きだから。

手放すなんて、御免だ。

たとえ最期の日が、もうそこまで迫っているとしても。


「何処にも行かせないで」

俺は貴方が思っているほど、綺麗じゃない。

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