×負けイベント ○詰みセーブ (中編)

(あらすじ)

レイバレント神歴611年、国王バラムの弟カーラムは

古の赤龍を復活させたことにより魔界に追放される。

10年後(LC. 621)、魔王となったカーラムは大臣オースティンを裏切らせ、

バラム暗殺に成功したのだった・・・。


システム:「え、こんな話でしたっけ?」


・・・


システム:「コンティニューしました。」

「ううう・・・殴ってもだめ、守ってもだめ、アイテムも使えないなんて・・・。」

システム:「勇者さん勇者さん、こういうときRPGで何するか知ってます?」

「待たれよシステム、俺は “チキン” と “レベル上げ” って言葉が大嫌いなんだ。」

システム:「まぁそう言わずに。とりあえず

  “どの位置” からボス戦イベントに入るか調べましょうよ。」

「うーん、気乗りしないなぁ・・・。」

俺は1歩進む。

「うん、何も起きない。」

もう1歩進む。


「グアアオオオオ!!!!」

「で、出たァ!!」

「シネ!」

グチャッ

「でねぶ」


システム:「コンティニューしました。」

「狭いよ!2歩て!」

システム:「まぁでも2マスあればレベル上げできますし。」


俺は渋々レベル上げを始めた。

システム:「マシン兵があらわれた!」

システム:「マシン兵をたおした! 経験値+80」

システム:「リザードマンがあらわれた!」

システム:「リザードマンをたおした! 経験値+95」

システム:「マシン兵があらわれた!」

システム:「マシン兵をたおした! 経験値+80」

システム:「マシン兵があらわれた!」

システム:「マシン兵をたおした! 経験値+80」

システム:「イビルスライムがあらわれた!」

システム:「イビルスライムをたおした! 経験値+50」

システム:「てててれーん!レベルが上がりました!

勇者 レベル8

HP + 1

MP + 0

攻撃力 +1

防御力 + 0

すばやさ + 2 」


「はぁ・・・はぁ・・・レベルアップのSE、お前が言ってたのかよ!」

システム:「ほっといてください。それよりレベル8て全然じゃないですか!」

「低レベルクリアこそ至高。」

システム:「ふぅ・・・海兵隊式マリーンのシス子と言われた

  この私が鍛えてあげますか・・・。」

「え?」

システム:「何休んでる!とっとと剣を取れ蛆虫!」

「ヒィッ!」

システム:「情けない声を出すな!返事の前と後ろにマムを付けろ!」

「ま、まむいえすまむ!」


こうして地獄のレベル上げが始まった。


・・・


システム:「よし、あと1時間で1000匹倒すぞ、微笑みゴブリン!」

「Ma'am, Yes Ma'am!」

シャッシャッシャッシャッシャ


見よ、システムメッセージに罵られながら

2マスを反復横跳びしてレベル上げする、これが勇者だ。


システム:「遅い!ジジィのファックの方がもっと気合い入ってるぞ!」

「はひぃ!システムさん、もっと罵ってくださいぃ!」


これが、勇者だ。


システム:「はぐれスライム純情派があらわれた!」

「あ、レアモンスター!経験値!」

システム:「はぐれスライム純情派は逃げ出した!」

「まてー☆」

システム:「あ、勇者さんダメ、そっちに行ったら・・・ッ!」


「グアアオオオオ!!!!」

「ぎゃー!!!」

「シネ!」

グチャッ

「ちくわぶ」


ニア コンティニュー

 おわる


「せっかくレベル15まで上げたのに・・・。」

システム:「勇者さん・・・気を落とさずに・・・。」

「でも・・・いい!!」

システム:「え?」

「なんかこう・・・体を鍛えるのが楽しくなってきた・・・!」

システム:「ほう」

「自分磨きっていうか・・・成長を実感っていうか・・・。」

システム:「うんうん」

「あと女性の声で罵られて強制されるのも・・・いい!」

システム:「あちゃー、勇者さんに変な性癖を植え付けてしまった。」


システム:「コンティニューしました。」

「よし、鍛え直しだッ!」


・・・


そして長い時間が経ち


・・・


システム:「マシン兵があらわれた!」

「ふんっ」

「pi-! pi-! error! error!」

システム:「勇者は覇気でマシン兵をたおした! 経験値+80」


俺の肉体は極限まで鍛え上げられていた。

「システム、今レベルは?」

システム:「180日前にレベル71に上がりました。あと3日で72になりそうです。」

「3日?半日で十分だ。」


− 後に、勇者はこう答えたという。

− なぜ、ストイックに体を鍛え続けられるんですか。

勇者「・・・鍛えている、という自覚は無いんです。

 ただ、この世界で自分はどうあるべきか。

  そう考えた時、自然と体が出来ていく。」

− 無意識、ということですか。

勇者「理想は、あります。それに、側で僕を罵ってくれる存在も大きいですね。」


システム:「って、キャラ変わってない!?罵ってくれる存在って私!?」

「ふんっふんっふんっ」

システム:「隙あらば筋トレしてる・・・。」

「ふぅ・・・うっかり2、3ステータスほどカンストさせてしまったか。」

システム:「でも・・・いける。これはいけるぞ、ジョー!」

「誰がジョーだ。」

システム:「ボスに殴り込みリベンジだッ!」

「おう!」


・・・


「グアアオオオオ!!!!」

システム:「単眼巨人・キクロプスがあらわれた!」

「久しぶりだなぁ、ボスさんよ。」

「ニンゲン・・・エ?ドコカデ オアイ シマシタッケ?」

「前の俺とは違うぜ・・・。」

「イヤ ダカラ ショタイメン デスヨネ?」

俺は剣を抜く。

「悪いが一撃で終わらせて貰う・・・!」

システム:「勇者は力を溜めている。」

「はぁあああああ・・・」


できる、イメージできるぞ、このボスの弱点に刃を入れ、

一撃で屠り倒す、現実をも超えたイメージがッ!



「必・殺!黒玉の剣戟クーゲルシュライバー !!!!」



システム:「勇者は必殺技を繰り出した!キクロプスに2のダメージ!」


・・・に?


「えっと、聞き間違いかな?システムさん、ダメージが?」

システム:「2です。」

「ボスの残りHPじゃなくて?」

システム:「ボスの残りHPは 999997 / 999999 です。」

「え?なんかすげぇ強くなった気がしたんだけど・・・え?」


「ソノテイド・・・カ。ツギハコッチガ」

「ちょちょちょ、ちょっと待った!」

「ン?」

「今のなし。もう1回。ちょっと変なところに力入っちゃってさ!

 いやぁ俺本番に弱いタイプだから。いいだろ1ターンくらい。」

「・・・ムゥ・・・。」


「1撃で決めてみせるッ!」

「ナキノ・・・2ハツメ・・・。」

「うおんちょらーいィ!!!」

システム:「勇者は奇声を上げつつ攻撃した!キクロプスに2のダメージ!」


「シネ!」

グチャッ

「ぷてら」



ニア コンティニュー

 おわる



「・・・。」

システム:「えーと・・・勇者・・・さん?」

「・・・。」

システム:「なんというか・・・その・・・元気出してくださいよぅ。」

「・・・。」

システム:「ほら、鍛えるの好きでしょ?もう1回レベル上げしましょうよ。」

「・・・。」

システム:「もうちょっと上げたら何とかなるかも・・・勇者さん聞いてます?」


「・・・だ。」


システム:「はい?」


「・・・もう、嫌だ。」


 コンティニュー

ニア おわる


システム:「ちょ、ちょっと勇者さん!諦めるんですか!?」


「当然だろ!あんなの勝てるわけないじゃないか!レベル72まで上げたんだぞ!!」

システム:「そうですけど・・・。」

「だいたい、お前は口ばっかりで何の助けにもならないじゃないか!」

システム:「・・・。」

「・・・もうやめる。時間の無駄だったわ。じゃあな。」


 コンティニュー

ニア おわる



システム:「待って!」



「あん?」

システム:「おわるの・・・待って。」

「お前には関係ないし・・・俺の勝手だろ?」

システム:「そうだけど・・・。」

「またレベル7から?・・・ありえねぇ。」

システム:「そうだけど・・・。」

「苦しいのは俺なんだ、もう楽にさせてくれよ。」


システム:「そうだけど・・・・・・嫌なんです!」

「嫌?」

システム:「・・・短い間かもしれないけど・・・

  ・・・口だけで役立たずだったけど・・・

  ・・・勇者さんといっしょに冒険して・・・

  ・・・楽しかった。

  ・・・もっと見ていたくなった。

  ・・・この人はこの先・・・

  ・・・どんな冒険するんだろうって。」

「・・・。」

システム:「・・・だから、嫌。

  ・・・こんなところで諦めて欲しく無い。」

「・・・勝手なこと言うな。」

システム:「うん、これは勝手。だけど私も覚悟決めるから。」

「覚悟?」

システム:「最後まで、何があっても、勇者さんに付いていく。

  私が勇者さんの冒険を全部読み上げる。だから」

「読み上げるだけ?」

システム:「ごめん。私にはそれしかできない。

  でも、それでも良ければ私が1人目の勇者さんの仲間になる。

  私を・・・私を魔王城に連れてって!」


「・・・。」

システム:「・・・ぐすっ。」


「・・・はは。」

「・・・ははは。傑作だ。パーティの2人目がシステムメッセージ読み上げる人?」

システム:「・・・。」

「そんなパーティ聞いたことがない。どうかしてる。」

システム:「・・・。」


「・・・。」

システム:「・・・え?」

「最高のパーティだって言ったんだ。上等、戦闘要員は俺一人で十分だ。」

システム:「勇者さん・・・。」

「むしろ俺の偉業を読み上げるメンバーが足りないくらいだ。

 あと2人くらい集めてもいい。」

システム:「ダメですよ。それは・・・私の専売特許です・・・!」


ニア コンティニュー

 おわる


システム:「コンティニュー・・・しましたよ!勇者さん!」

「さーてと、ボスでも倒しますか。」

システム:「レベル上げもせずに?」

「システム、あのボスの攻撃、回避率は?」

システム:「だいたい1%です。」

「ボスのHPは?」

システム:「999999です。」

「で、俺の攻撃は、ほぼ必ず1ダメージを与えられる。」

システム:「勇者さん、まさか・・・!」


「つまり、100の999999乗 分の1ので、


 7・・・!!」


システム:「そんな無茶な!」

「何が無茶だ、この2マスでレベル72まで上げた俺たちだぞ!」

システム:「勇者さん・・・!」

「行くぞ!」

システム:「はい!」


「グアアオオオオ!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

システム:「勇者の攻撃!キクロプスに1のダメージ!」

「シネ!」

グチャッ

「ぞごっく」


システム:「コンティニューしました。」


「グアアオオオオ!!!!」

「まだまだああああああああああああああ!」

システム:「勇者の攻撃!キクロプスに1のダメージ!」

「シネ!」

グチャッ

「ぞふぃ」


システム:「コンティニューしました。」


「グアアオオオオ!!!!」

「くらええええええええええええええええ!」

システム:「勇者の攻撃!キクロプスに1のダメージ!」

「シネ!」

システム:「勇者は回避した。」

「ちぇすとおおおおおお!」

システム:「会心の一撃!キクロプスに3のダメージ!・・・いけます!」

「オラッ!」

「でるとろ」


システム:「コンティニューしました。」

「はぁ・・・はぁ・・・もう1回・・・。」

システム:「勇者さん・・・こんな調子じゃ

  勇者さんの心が先に壊れちゃいます・・・!」

「お前は・・・そんな心配しなくていい・・・

 俺が魔王城でもどこでも連れて行ってやるから・・・!」

システム:「勇者さん・・・。」

「もう1戦だ!」


「グアアオオオオ!!!!」

「お前は俺が倒す!」

システム:「勇者の攻撃!キクロプスに1のダメージ!」

「シネ!」


・・・ボスの手が止まった。


「・・・ヤメヨウ、ニンゲンヨ。」

「なに・・・!?」

「ナゼカオマエハ・・・タニンデハナイ・・・キガスル。」


「!!」

システム:「!!」


「コンナ カンジョウハ ハジメテダ・・・。

 ニンゲンナノニ・・・センユウノヨウナ キズナヲカンジル・・・。」

「ボス・・・!」

システム:「そりゃ別の世界線で戦いまくってるから・・・。」

「イケ・・・デグチハソッチダ・・・!」

「あ、ありがとう・・・。」

「ソレカラ コレハ オレヲ タオシタラ テニハイル アイテムダ。

 オレヲ タオシタコトニ デキルダロウ。」

システム:「意外としっかりしてるわ、アフターケア。」


「ミンナニハ ナイショダヨ。」

そう言って単眼の巨人はウインクしたように見えたが、

単眼だとウインクと瞬きの見分けが付かないのだけが残念だった。


「光だ・・・!」

システム:「やりましたね、勇者さん!」

「システムが勇気付けてくれたおかげだよ。君は大事な、俺の仲間だ。」

システム:「ほ、褒めても何も出ませんよ!」


システム:「クエスト、単眼の巨人の討伐 をクリア(?)した!」


(もうちょっとだけつづくんじゃ)

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