負けイベントかな?と思ったら詰みセーブでした
ゼブラD
×負けイベント ○詰みセーブ (前編)
俺、勇者(17)は村人の依頼でダンジョンを攻略していた。
システム:「ダンジョン、"ミケーネの魔窟" に進入しました。」
なんでも、ここに棲む巨人が行商人の隊列を襲って人々が難儀しているという。
洞窟内は暗く魔物で溢れていたが、松明を片手に奥へ進んでゆく。
システム:「モンスター、”マンバット” があらわれた!」
「キィ!」
黒い羽の生えた小人族のような魔物が立ちふさがる。
俺は松明で牽制しつつ剣を抜き、魔物に振り下ろした。
システム:「勇者の攻撃!マンバットに21ポイントのダメージ!」
「グギギィ・・・」
俺の一撃で魔物はどさりと倒れる。
システム:「マンバットをたおした! 経験値+40」
こんな通常エンカウントの魔物、もはや敵ではない。
それより俺は、ずっと気になっていることがあって探索に集中できていなかった。
「・・・あの、すみませーん。」
洞窟に俺の声が響くが、返答はない。
「さっきから俺の行動を実況してるの・・・誰ですか?」
システム:「・・・」
システム:「・・・え、もしかして私に言ってます?」
「はいー、正直、気が散るんですけど・・・。」
システム「・・・。」
「・・・。」
システム:「えっと・・・これ、システムメッセージなので
本人には聞こえないことになってるんです。」
「えっと、システムさん?めっちゃ聞こえるんですけど。」
システム:「人生、細かいことは気にしないことも大切ですよ。」
「いやだって気になるでしょ、四六時中実況されたら。
プライベートとか無いのかよって。」
システム:「・・・と勇者は思ったが、
やっぱり気のせいだったので冒険を続けることにした。」
「してねーし!都合のいいようにナレーション入れるのやめて!」
システム:「チッ」
「最初聞こえてきたときはついに頭の中のお友達作っちゃったかと思ったぞ!」
システム:「あぁイマジナリーフレンド・・・。
勇者様なのにぼっち旅ですもんね。」
「ち、違う!まだ1年1学期くらい序盤だから!これから仲間とか集まるし!」
なんとかこの”システム”とかいう女を黙らせる方法は無いものか。
「どうしても実況するって言うんだな?」
システム:「まぁ・・・これが私の仕事ですから。」
「よーしそれなら・・・思いっきり卑猥なことして、その口から喋らせてやるッ!」
システム:「なッ・・・!?この変態勇者!」
「ふっふっふ、嫌ならやめてもいいんだぞ?」
システム:「・・・やりますよ、やればいいんでしょ。
− 勇者は昨夜盗んだ村娘の下着をバックパックから取り出すと舌なめずりを」
「うぉおい!盗んで無いし何も取り出してないだろ人聞きの悪い!」
システム:「じゃあ盗んだ村娘をバックパックから」
「人攫いじゃねえか!」
無性に腹が立ってきた。
「くっそ、どうせどこかにカメラとスピーカーとかあるんだろ!」
俺は洞窟の壁や天井をチェックしながら歩く。
「そこかッ!?いやこっちも怪し・・・」
システム:「ちょ、そんなもの無いし。よそ見してたら危な・・・」
ガラッ
「う、うわあああああああああああああああああああ!」
システム:「勇者は亀裂から滑り落ちてしまった!」
・・・
「ぐえ」
システム:「落下ダメージ、-10 HP: 83 / 93」
俺は広く、荘厳な石造りの部屋に落ちた。何本もの石柱が見える。
システム:「自動セーブされました。」
「いてて・・・なんだここは?」
システム:「だいぶ深い階層まで落ちたみたいですね。」
「なんかこう、ボスとか出て来そうな雰囲気だな、ハハハ」
と、軽口をたたきながら数歩進んだところで。
「グアアオオオオ!!!!」
「!?」
システム:「単眼巨人・キクロプスがあらわれた!」
「ほ、本当に出やがった!」
「ニンゲン・・・コロス・・・!」
「へへ、ちょうど良いショートカットになったぜ!」
俺は剣を抜く。
「このままダンジョン攻略だッ!」
システム:「勇者の攻撃!キクロプスに1のダメージ!」
・・・いち?
「えっと、聞き間違いかな?システムさん、ダメージが?」
システム:「1です。」
「ボスの残りHPじゃなくて?」
システム:「ボスの残りHPは 999998 / 999999 です。」
「え、なにそれ強くない?え?」
「ニンゲン・・・ナニヒトリゴトイッテル・・・。」
あ、やっぱり独り言に聞こえるんだ。じゃなくて!
システム:「どうします?」
「逃げるんだよォー!」
システム:「ボス戦なので逃げられません。」
「じゃあどうすんのコレ!?攻撃魔法も覚えてないよ俺!?」
システム:「はぁ・・・情けない勇者様。
落ち着いてください、これはきっと負けイベントです。」
「負けイベント!?」
システム:「昔、シス友(※)に聞いたことがあります。
負けても先に進めるイベント戦闘があると。」
(※ システムメッセージ友達のことらしい)
「な、なんだぁ。おかしいと思ったんだよ。
こんな強いボスが序盤のダンジョンにさぁ。」
「ゴチャゴチャウルサイ・・・シネ!」
グチャッ
「へぶし」
システム:「ダメージ -7545894850 HP: 0 / 93」
俺は死んだ。
ニア コンティニュー
おわる
「え、何コレ?」
システム:「普通に死んだみたいですね。」
「ええええええ!?負けイベントは!?」
システム:「は?何のこと?」
「システムさん手のひらクルーしやがった!!!」
くっそ、こんなところで冒険が終わってたまるか。
システム:「コンティニューしました。」
ボスの部屋に戻ってくる。
「え、ここからなのか。」
システム:「さっきオートセーブされたんで。」
「よーし、いっちょリベンジだ!」
「グアアオオオオ!!!!」
システム:「どうするんですか勇者さん。」
「ふふふ、これは
まずは防御して隙を伺う!」
システム:「勇者は身を守っている」
「ニンゲン・・・シネ!」
グチャッ
「ひでぶ」
ニア コンティニュー
おわる
システム:「防御しても一撃って・・・。」
「ぐぬぬ・・・もう1回だ!」
システム:「コンティニューしました。」
「シネ!」
グチャッ
「ぐんま」
システム:「コンティニューしました。」
「だめだあああああああああああ!」
システム:「あの・・・言いにくいんですがこれって詰」
「詰んでない!断じて詰んでない!そうだアイテム、アイテムを使おう!」
俺はインベントリを開いた。
薬草 x 20
回復薬 x 10
ラストエリー草 x 1
ルラルラの実 x 2
へんな置物 x 1
困り果てたときの巻物 x 1
きけんな水着 x 1
システム:「ちょっ・・・本当に盗んだ女物の水着が・・・!」
「ち、違う!これは宝箱に入ってたんだよ!装備品だから!」
システム:「・・・」
姿は見えないが、ジトーとした視線を感じた。
「それより見ろよこの回復アイテムの数々!」
システム:「あ、すごい。完全回復アイテムのラストエリー草まで・・・。」
「ふっふっふ、何か勿体なくて使えなかったが、ここで遂に役立つ時が!」
システム:「・・・ん?一撃でやられるんじゃ意味無いような・・・。」
「・・・。」
システム:「・・・。」
「ちくしょう!」パクー
システム「勇者はラストエリー草を食べた! 10回復! 93 / 93
ああっ、もったいない!」
「へんな置物!」
システム:「・・・何ですかそれ?」
「よくわからん。インベントリって、
いつの間にか記憶にないアイテム増えてるよな。」
俺は使ってみた。
システム:「・・・勇者よ、アイテムには使いどころというものがあるのじゃ。」
「なんでいきなり口調変わった!?」
「困り果てたときの巻物!」
システム:「おお、大本命ですね!これ以上ないってくらい困ってるし!」
「ふふふ、持ち主が困ってることに応じて助けてくれる万能アイテム!」
システム:「勇者は “困り果てたときの巻物” を開いて詠唱した!」
ゴゴゴ・・・ 巻物が俺の手から浮き上がってまばゆい光が!
カッ!
そして俺の手には・・・
システム:「え。」
「え。」
美少女フィギュアと紙切れが残されていた。
紙に書いてあることを読んでみる。
『拝啓、勇者様。困り果てたときの巻物です。独りぼっちは寂しかろうと思い、
僭越ながら可愛い女の子のフィギュアをお贈りさせて頂きます。敬具。』
システム:「ぷっ・・・くくく・・・巻物にまで同情されてる・・・。」
「・・・・・・・・・・クソがッ!」
俺は紙を破き捨てる。
システム:「かみは バラバラになった!」
「ルラルラの実ぃ〜」
システム:「なんかネコ型ロボット意識してきてません?」
「いや〜俺がバカだったよ。」
システム:「何ですか急にニヤニヤして気持ち悪い。」
「今の俺はご機嫌だからそんなこと言われても平気☆
これ使えば腐れダンジョンから脱出できるんだもん☆」
システム:「あ!一瞬で町に戻る系のアレですね!」
「そう!状態を整えて仕切り直しだッ!」
システム:「ん?でもちょっと待ってくださいアイテム名的に・・・」
「えいっ☆」
システム:「勇者は “ルラルラの実” を使った!」
俺の体が浮き上がり・・・すごいスピードで上空に・・・
ゴキッ
「ぐは」
ではなく天井にぶち当たった。
ニア コンティニュー
おわる
(つづく)
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