第6話  よしこの裏切り


 よしこちゃんの元へ戻り、またいつもの生活に戻りつつも、相変わらず借金取りには追い回される毎日。


 しかし、実を言うと僕はあれ以来、万引きを止められずにいた。


 よしこちゃんと【もう万引きはしません】と約束をしたが...約束を守れる程、僕はお利口さんではない。


 仕事も倉庫仕分けのみで、

18万円程の給料じゃ何も出来やしない。


 すぐに現金化できるのはコミック本だ!!


 手っ取り早く、尚且つ刺激がある盗み。


 実働時間は約30分!

 

 仕事をするのが、バカらしく思える。

 

 新しいバイトを見つけたとよしこちゃんには伝え、僕はせっせと盗みに励んだ。

 

 ある時、よしこちゃんが僕に不信感を抱いてたみたいで、僕の行動を尾行していた。


 コミックを盗み、店を出た瞬間...

 よしこちゃんに確保されてしまい、僕のトートバッグを確認するや否や、よしこちゃんは誰かにTELをし、そのTELの相手が車でやってきた。

 

 その男によしこちゃんは

 「・・カ月位、よろしくお願いします」

 僕は知らない男の車に乗せられ、そのまま連れて行かれた。

 

 後部座席に乗せられ、後ろを振り返った僕。

 

 【ファック ユー】

  ポーズをしているよしこ...(怖)


 ヒデキ「え?え――――――っ!!」


 《うち、これからどうなるの―――!!

     怖すぎるんですけど――――!》


 

★番外編~ヒデキ、謎の男と車中にて~★

 

 謎男「..........」

 シ――――――ン。


 ヒデキ「あの―――うちはどこへ連れて いかれるのかな?」


 謎男「.......」だんま――――


ヒデキ「すみません。どこに行くんですか?よしこちゃんは?」


 謎男「.......」だんま―――


ヒデキ《うそぉ―――

 この人何も話さないじゃないのよ―――》


 行き先も分からないまま、静寂仕切った車中に、おしゃべりなヒデキちゃんは気が狂いそうになった。


 ヒデキ「あの――どこに向かってるかだけでも教えて下さい。あとトイレに行きたいんだけど....」


 謎男「......」

 2リットルのペットボトルを差し出された。...で、だんま――――――。


 ペットボトルで【しっこ】は初だったから流石に抵抗があったが何事もチャレンジ!!


 普通に出来るじゃ~ん (ニッコリ)


 しかし、どこへ行くのだろうか。

 

 いつの間にか、僕は眠ってしまっていた。


 この状況にも肝が座ってるヒデキちゃん。

 

 《ん?》と目を覚ますと、車は停車していた。何時間経ったのだろう。


 車に付いている時計を見たら、拉致されて6時間は経過!


 《どこよ――――ここ!》

 テク テク テク

 また、知らない男が車に近づいてきた。


 車のドアをコンコンと叩いてきたから、僕は窓を開けた。

 

 ヒデキ「ハイ?」


 謎男「オマエ スグオリロ!」

 何となくカタコトの口調。


 結局、運転手の謎男とは一言も話さないまま、ドライブは終わった。アハハ


 ★番外編 終わり★


 僕は抵抗も無くカタコトのオヤジに付いていった。


 カタコト「ココ オマエノヘヤ ハイレ」


 プレハブ小屋で10畳位ある部屋の中には20人位のやさ男達がギュウギュウに詰め込まれていて。。


 ヒデキ「ここで何するんですか?」

 《ファック ミー?》ウフフ


 カタコト

 「ココ ネル アシタ ハタラク」


 ようやく、僕は今の現状に気付いた。

 よしこちゃんに、ヒデキちゃんは売られたのだ。


 カタコトの男は作業着と弁当を置いて去っていった。

 ムンムンとしたその部屋からは、男臭さと異様な空気が漂っていて、座れそうな座布団1枚位のスペースを空けてもらい、そこへ座って弁当を食べた。

 

 隣に座っていた男に自己紹介をし、相手の名前を聞いた。

 ニックネームなのか、その男はガマサノールと自分の名前を言っていた。


 ヒデキ「ガマさん、ここは何ですか?」

 

 ガマ「ここはタコ部屋と言って、大人数で泊まる部屋なんだよ。借金返済の為、数ヶ月、重労働をする宿舎みたいなとこって言ったら分かるかな?俺達みたいな奴にちゃんとした部屋なんて用意されてないからね(笑)

まあ、君もすぐに慣れるよ」

 

 有り得ない状況に僕は絶句した。


 ヒデキ「あの...ガマさんはどれくらい働いているんですか?」


 ガマ「2年くらいかな...」


 嘘でしょ?!二年とな!有り得ない!

 これから僕はどうなってしまうのだろうっ

―――――ていうか、何の仕事をするのか聞きたかったが、ガマさんは座ったまま眠ってしまった。

 

 いつの間にか、僕も眠ってしまい(座ったまま)目が覚めた時には、すでにタコ部屋メンバーはみんな起きていて、昨夜のうちに着替えたであろう作業着。僕も急いで着替えた。

 

 カタコトおやじが何やらお盆に乗せ、ゆっくりと歩いてきている。タコ仲間たちは、唾を飲み、待つ。


 【ガラガラ~】とドアが開き、お盆の上には人数分のおにぎりが乗っていて、二個ずつみんなに配給された。


 急いで、おにぎりを食べ、まだ薄暗い朝五時半くらいであろうか・・・

 

 その足で作業場へ向かうことになった。

 結局、昨夜はどんな仕事かをガマさんに聞けずじまい。

 

 ガマさん以外は話せる元気もなさげで、聞きたくとも体力が残っている新人ヒデキちゃんはアウェイ。

 

 誰も話さないまま、30分くらい歩いただろうか...柱くらいの沢山の材木が並べてあり、その材木を数台の2tトラックへと積み込む作業。慣れている作業員はその材木を一人で担いで、運んでいた。

 

 へなちょこヒデキちゃんは女子に近い体力だから、一人で担ぐのは無理!


 なかなか運び出せず、カタコト男から牛やブタみたいに棒で何度も叩かれた。

 

 ただでさえ、重労働なのにムチ打たれては体が持つわけもなく...


 僕はそのままダウンしてしまった。


 午後からは、また徒歩で別の場所へ移動し、10㎏以上はあるデッカイ石を運び出す。

 

 腕は千切れそうだし、足も腰もフラフラ。

 

 朝のおにぎり二個では体力が続くわけもない。昼御飯が届く気配もなし。

しかし、タコ仲間達は黙々と作業をこなしていた。


 日が沈みかけた時、作業は終了。


 日本むかし話みたいに、

 日が登ったら野良仕事の始まり。

 日が沈み、カラスがカァーカァー鳴き始めた頃合いにくわや斧を片付け始めるみたいな。

 真っ暗になる前にタイミングよく終了。


 時計がない状況の中、体内時計で動いている昭和の民達。


 終わったと安堵する間もなく..懐中電灯を手に、また来た道のりを徒歩40分かけて戻る。戻ったところで、タコ部屋。


 体を休める場所ではない。

 横になって、ゴロンと出来ない空間に戻りたいと思える訳もない。

 

 ようやくたどり着いたタコ部屋には、弁当が届けられていた。

 

 白ご飯に黒ごまが少々、ひょっこり顔を出している小さな梅干し..ご飯8割、おかず1割、空間1割 (片寄っていたから)。

 キャベツと豚肉(脂大半)のシンプル塩炒め、沢庵が添えてあった。


 昨日、食べた弁当とは大違い。

 タコ仲間達は、美味しそうに食べていた。


 僕は美食派だからこんな粗末な弁当なんて!!....残さず食べた。ペロリ。

 お代わりくださいと言いたいくらいだ(笑)


 タコ部屋には、TVもねぇーラジオもねぇーおまけに時計も何もねぇートホホ。


 人は居ても、話せるような体力がある奴もいない。ただ時間だけが過ぎていく。

 静かな...とても静かなタコ部屋二日目の春の夜だった。


 ...今、何時かな~

 ヒデキちゃんの体内時計は21時5分を指していた。

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