中編 鉄火丼

『日登市主催ビルド・フード・ファイト全国大会!!! けっつ、しょおおお、せんんんん!!! 実況は引き続きわたくし波呂沢と』

『乱場河豚がお送りする』

『決勝にみごと残ったチームは、わずかに2チーム! ひとつは、まさかまさかの番狂わせが起きた初戦。赤い炊飯のジャーを打倒し、そこから驚異の連戦連勝を重ね、ついに決勝戦まで辿り着いた時代のホープ! チーム・フリージア!』

『あのヤのつく外見に騙されてはならん。おそらく、アンダーグランドな世界でフードファイトの荒波にもまれてきた猛者だ。恐ろしいな、フリージア!』


弾正ダンジョー!」

高木タカキも頑張ってるし! 弾正も頑張らないと!」

実花みか、あなたの勝利を祈っています」

「ふっ、この勝負は、インスタえる……この旗のもとに集え……!」

「少し静かにしないか、真樹マキ。ところでこのあと、骨牌カルタを誘って飲みに……」

「それは浮気というものですか!」

「真樹……わたしは、いつまでも……」


『平和な世界……』

『平和ですか、乱場殿?』

『いや……応援団のほうも実に盛り上がっているな。そして、決勝へと駒を進めたもう一つのチーム。その名を聞こう』

『もう一つのチィィィム!! その名はこの戦いをまるで象徴とするかのような、運命の申し子! 予選からの注目株! 一部の情報によると、ファイターはあのジャーの娘であるとか! ご紹介しましょう、輝ける新星──チーム・BFF!!!!』


「さあ、いくぞ、セイ」

「うん」


 そして僕らは、会場へと立つ。

 爆発する声援。

 いくつもの拍手。

 そのすべてを、レムさんは堂々と受けとめて、まっすぐに歩く。

 すでに会場はセッティング済み。

 リアルタイム計測装置が設置されたファイターの席には、制服のようなものを羽織った織牙さんがいて。

 挑戦的な表情で、足を机の上に載せ、座っていた。


「よぉ、来なさったかご両人。やっぱり俺たちの敵は、てめぇらだったな」

「ああ、来てやったぜ、ヤクザ野郎。認めてやるよ、あんたらは私の敵だ!」


 バチバチと火花を散らすふたり。


「ねぇ、織牙。こいつは調理してもいい?」


 彼の背後から、車いすが現れる。

 ビルダーの実花さん。

 僕はごくりと生唾を飲み込み、彼女と相対する。


「ん? あんた、だれ?」

「僕は……僕はセイ、氷室セイ」

「ああ、ファイターの隣の人か」

「いまは、その認識でもいいよ。でも、すぐに料理でねじ伏せる」

「……あんた、わかりやすいね。嫌いじゃない」


 それまで無表情を貫いていた彼女は、少しだけ笑った。

 ただ、その目はいまだに、なにを考えているかわからない深い色のままだった。


『それではここで、決勝戦の料理を指定します!』


 波呂沢さんが言った。


『決勝戦は、メニューが限定される特殊ルール! こちらが用意した食材と、ビルダーが持ち込んだ機材に調味料を自由に使い、ある料理を作っていただきます。その料理とは──』


 その場にいたほとんどのものが、固唾をのんだ。

 叫ぶように、波呂沢さんが発表する。


『鉄火丼! 決勝戦にふさわしい大食い料理、それは鉄火丼! ビルダーはより多く食べられる鉄火丼を作り、ファイターはさらに多く食べる! それではこれより、ビルド・フード・ファイト決勝戦を開始します。フードファイト・レディィィィ、ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 僕が進み、実花さんが車いすを走らせ。

 織牙さんが椅子に体重を預け。

 レムさんが腰かけ、目を閉じる。



 決勝戦。

 ファイナルステージが、ついに始まる……!

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