4話 魔力と魔法

 大魔王オレの魔力によって破壊され、大黒柱を残して瓦礫がれきの山となった喫茶店に向けてシーラは青く光る両手をかざし、俗にいう回復魔法というもので修復にかかっている。

 辺りはまだ薙ぎ倒された樹木や、剥き出しで割れて突き出た地面などで危険なため、ナナコはシーラの黒ずきんフードの中に避難していた。


「大魔王様ぁ、修復に必要な魔力が足りませんっ。手伝ってください」

「あぁ、どうしたらいいんだ?」

「わたしの肩に手を乗せるだけで充分です」


 そんなまさかアニメみたいなこと……オレはシーラの肩に手を乗せると、自分の手が何やら銀色に光り始めた。

 すると割れて突き出た地面は、ゆっくりと地上に引いていき、建物の瓦礫がれきはみるみる内に大黒柱のところで形を成していく……。

 隣にいるシーラが、こんなものはまだ序ノ口ですよと言っているかのように微笑む。


 まんまアニメみたいだが、まさにこういった様子が回復魔法の修復行程なんだろう。

 しかし、こうして回復魔法を物質に対してかけることもできるとはな……オレは改めてこの異世界の〈魔力〉という概念、そしてこの〈魔界〉について聞きたい疑問を募らせた。

 何から聞こうか……そう、まず率直に思ったことがある。それはさっきオレが宙に浮いていた時に気づいたことだが、この辺りは見渡す限りの大森林で他には人家の灯りがまるで見当たらなかったこと。そしてこんな深い森の中で、1人の少女が喫茶店を経営している。これはどういう訳なんだとシーラに尋ねてみた。


「ここは営業目的の喫茶店ではありません。 趣味と実益を兼ねたわたしのおうちです。ちょっとこれには訳がありまして……人里離れたこの地に、今はこうして住んでいるという訳なんですよ。理由については、また追々説明していきますね」

「なにっ、シーラの家だったのか? いや、それはすまないことをしてしまった……」

「うちのパパがご迷惑をかけましたニャアァ……」

「いえいえ……森はちょっと難しいですが、地表やおうちの方は何とか修復できそうですよっ」

「そうかぁ、それは良かったっ」


 大黒柱に集まった瓦礫は、徐々にではあるが壁や土台を形成していこうとしている。

 しかし、派手にやってしまった……正直まだ今でも自分の力に驚いている。

 そしてあの時、オレの身体に起きた変化……自分の背中から突き出た肩甲骨が、銀色に黒みがかったカラスのような翼へと変貌した時のことを、オレはシーラに聞いてみた。


「あれは〈魔族第二覚醒〉といって、魔族の特殊な進化方法の1つです。特に、第二覚醒の翼の開花は初めてだと血もいっぱい出ますから、かなり痛いんですよぉ……」


 初めてだと血がいっぱい出るって……オレは思わずあることを連想してしまっていた。

 まぁ、これは子供のシーラにはまだ分からないことだ。あ、でもたしか120歳とか言っていたな。

 もしかして……いや、まさかそんなことは無いとは思うが……だがしかし最近の日本だけではなく、その時代の国の情勢などによっては、アレはかなり早かったりするとも言う……。

 この天使のような悪魔っ娘が、どうかまだキレイなままであるようオレは願った。


 すると、シーラはほんのりと顔を赤くさせ……こう言い放った。


「もぅ、声に出てますよぉ。それくらい知ってますっ」

「ッ!? げっ、もう知っているのかぁっ? まさかその歳で知ってるって、まさに禁忌に触れる行為だぞぉっ。おぉ、なんと神をも恐れぬことを……」


 本当にソノ経験があって知っているのかは分からない。オレは真偽を確かめるため、わざと大げさに驚いてみせ鎌をかけてみた。

 すると、シーラは茹でダコのように顔を真っ赤に染め上げ、今にも頭が爆発しそうな勢いで必死に反論してきた――。


「し……ししし、してませぇんっ。わたしはまだ経験したことがありませんっ。ち、知識としてどんなものかを知っているだけですっ。それに、神など恐れてなんかいませんっ――」


 そうか、それなら良かった……オレと同じか。

 この子も見た目は子供とは言え、まさか20歳の自分よりソレも先を行っているのかと思ったが、何だか安心したぞ。

 オレはシーラの方を向いて、ニヤリと口角を上げほくそ笑んだ。

 そこで、オレに彼女はしてやられたことにハッ……と気がつく。


「もぅっ、引っかけましたねぇっ」


 ものの見事に茶化されたことで、シーラはムキになってオレの胸をまた両手でポンポン叩き始めた。

 本当にこの子は、少し怒ったくらいの顔も実に可愛いらしい。

 実年齢は違うらしいが、こんな妹がいてくれたらどんなに楽しいだろうと、一人っ子のオレは以前から常々そう思っていた……。


「あはは、悪い悪いっ。120歳って言われても、中々実感が湧かなくてなぁ……」

「そうですねぇ……確かに地球人の年齢感覚だと、無理もないかも知れません……」


 この世界の人物の年齢から、0を1桁減らして考えると分かるはずですと彼女は説明してくれた。

 つまり、地球人感覚の見た目12歳=この異世界では120歳ということだ。

 やはり、地球人からしてもこの異世界の感覚からしても子供であることには違いない。だが、いざとなれば身体の発育なんて魔力でどうにでもなる……らしい。

 それも興味深い疑問ではあるが、これ以上はヤブをつついて何とやら。この件に触れるのはここら辺で止めておこう。


「コホン……では〈魔族第二覚醒〉で、初めて翼が開花されるところまでは説明したと思います。その前の第一覚醒で初めての魔力行使……あの地震のようなものですが、通常この時に一瞬だけ戦力(総合的な力)が上がり、その本人が使用できる〈属性魔力〉が解放されるんです」

「おぉ、属性魔力ってアレかっ……あるのか?」

「はいっ」


【属性魔力】

 火、氷、などの属性のことで、他にもかなりの種類がある。

 使用できる属性魔力は個人ごとに決まっていて、基本的な魔力による攻撃手段として使用できる。

 これに対して〈魔法〉は一種の技のようなもので〈魔力〉の応用。


 ちなみに魔族の力やその魔力の根源は、翼の根元となる肩甲骨の辺りにあるそうだが、肩や背中に触れてみても今は特に変わったところは無い。

 オレが第一覚醒した時に、その次の段階である第二覚醒まで一気に到達したため、想定外の魔力が長時間解放されることになってしまったようですと、彼女は続けて語った。


「我ながらオレTUEEEっ」

「わたしもあんなことは初めてだったので、正直驚きました。あの時わたしが放った〈制限リストリクション〉の魔法で、大魔王様の魔力をある程度抑えることができなかったら、今頃はどうなっていたか……」


【リストリクション/制限】

 青色の呪文が刻まれた黒いベルトを締めたような2つの大きなリングが、対象の身体を囲むように交差しながら回り出し、魔力を抑えつける。

 対象の行動や力の効果範囲、威力などを制限することができる。

 同格以下に有効、格上には無効。

 シーラのみ使用可能。


「そうだったのか……あの時オレはてっきり、また別の場所に飛ばされるんじゃないかと思って、つい抵抗してしまった」

「もぅ、そんなことしませんよぉ。この場所への移動に使ったのは〈暗転ダークチェンジ〉といって、いわゆる転移魔法なんです」


【ダークチェンジ/暗転】

 拠点登録した場所へ帰還する転移魔法。

 発動させた本人が、任意で触れた対象にも有効。

 魔王以上に限り使用できるが、1日1回のみ。


 また、リストリクションは〈特有魔法〉というものに該当するんだそうだ。これは個人の特性に由来した言わば個人・・魔法に分類されるため、その本人しか使用はできないらしい。

 そして、オレをこの魔界に召喚した魔法も彼女の特有魔法〈大魔王召喚ロイヤルインヴォケーション〉という、特有魔法の1つなんですとシーラは説明する。


【ロイヤルインヴォケーション/大魔王召喚】

 大魔王級の魂を持つ地球人の中から選抜し、その対象を魔界に召喚する。呼び出された地球人がどの大魔王の生まれ変わりなのかは〈ククル〉の魔法で確認することができるらしい。

 彼女の特有魔法の中でも謎が多く、他にも明らかになっていないことがあるのだそうだ……。


【ククル】

 これもシーラの特有魔法の1つ。

 この魔法を使ってオレの名前を確認したと言う話だが、地球で使用されているあのネット用語に響きが似ているのは、気のせいかも知れない。

 主に文字や道具などの鑑定に用いるらしい。


「へぇ、自分だけの魔法かぁ……それもいいなぁ」

「はいっ。例えば、今おうちを直すために使用している回復魔法なんかは、原理さえ分かれば割と簡単に扱える〈基礎魔法〉なんですよ。〈暗転ダークチェンジ〉なども魔王以上限定ですが、基礎魔法に該当しますね」


 どうやら魔族には、アニメやゲームなんかで言う……味方の回復役を担ういわゆるヒーラー。

 味方の強化や、プラス効果のある補助の他支援役を担うバッファー。

 敵の弱体化や、状態異常などマイナス効果を付与してその妨害役を担うデバッファー。

 敵に高火力の攻撃を浴びせ、ダメージディーラー役を担うアタッカー。

 敵からの攻撃を集中して受けることで、味方をその攻撃から守る防御役を担うディフェンダー。

 ……こういった概念がないらしい。

 つまり、戦闘における職業というか役割というようなものが、はっきりと区別されていないのだ。


 役割がはっきりと区別されているのもいいが、これだと仲間がヒーラーだけとか、アタッカーだけしかいなくて進めない……というゲームでよくあるような職不足に陥ることがある。

 そう考えると、むしろ区別されていない方が返って自由自在に、その時々の行動が取れるというものだ。もちろんそれには、より仲間同士の密接な連携が必要になってくるが……。


「大魔王様も基礎魔法や、傲慢の魔王としての特有魔法も、いずれ使用できるようになりますよ」


 なるほど、ゲームでいうところの〈基本スキル〉に〈専用スキル〉みたいなものか。

 シーラの肩に乗せて銀色に光るその手を、オレは改めてまじまじと見つめる。

 今からでも試してみたい。そんなオレの気持ちを察してか、彼女はこんな提案をしてきた……。


「ふふふ……回復魔法は対象の本来の状態や、その仕組みなどの完成形を知っていて、それを元の位置に戻すという行程なので少しコツが必要なんですよ。ですが、防御魔法くらいなら今すぐにでも教えられますが……試してみますかぁ?」

「おっ……あぁ、ぜひとも教えてくれぇっ」


 アニメやゲームなどで、これまでに何度も夢にまで見てきた魔法……それを今のオレは使うことができるんだ。もちろん、そんな提案に乗らない訳にいかない。

 いずれは回復魔法も使えた方がいいだろうが難しそうだし、それもシーラが使えるのならまずオレはその防御魔法からだな。

 しかし、シーラはあいかわらず両手を家の方に向けている。この体勢で一体どういう風に教えてくれると言うんだ? オレが不思議に首を傾げていると……。


「防御魔法というものは、何も手を使わずとも使用することができるんですよ。ですが、まずは分かりやすいように手を使ってしてみましょう。それでは大魔王様……空いているもう片方の手を前にかざし盾を持つようにイメージしてみてくださいっ」

「あ、あぁ……」


 シーラの肩に乗せた方とは逆の手を、オレは自分の目の前にそっとかざし、中世ヨーロッパとかの戦争映画などでよく見られるような、これぞ盾という形をイメージしてみた。

 そう、伝説の勇者なんかが持つような鋼鉄の盾を……。

 すると、オレが手をかざした前方から囲むように、うっすらと弧を描く半円形のバリアーのようなものが銀色に光り浮かび上がった――。


「こ、これは……?」

「やはり、飲み込みが早いですねぇ。そうです、それが防御魔法で形成されたシールドです。今度は同じ感覚で、よろい甲冑かっちゅうを身に付けたようにイメージしてみてくださいっ」


 次はよろいか……。

 オレは、また中世の騎士などが身に付けるようなよろい、足の先から頭の上までその鋼鉄の甲冑かっちゅうに身を包む、王に仕える騎士のような姿をイメージした。

 そう、洋館などでもよく夜になると怪奇現象なんかで、突然ガチャリガチャリと動き始めて辺りを歩き彷徨さまよう、目のところにしか隙間が無いあのようなよろいを……。


 ――ブウゥ……ゥン!


 すると、オレの身体全身を包み込むように、うっすらとバリアーのようなものが銀色に光り浮かび上が……りはしたがどうやら上手く安定しないのか、先ほどよりも色が薄くその光も弱々しい。

 その様子を見て、シーラは推測する。


「うぅ……ん、何かイメージが足りないみたいですねぇ。魔力や魔法は言わば想像力や意志によるものです。大魔王様が身に付けるよろいとして、もっと自身に合ったイメージが他にあるのかも知れません。着慣れたお気に入りの服を着る時は気分がいいように、ゆくゆくは造作もなくできるようになりますよっ。さぁ、基礎魔法はこのくらいにしておきましょうか」


 想像力と意志か……想像力には自信があるが、意志と言われるとあまり自信が無い。魔力と魔法、確かに奥が深そうだ。まさか、自分にこんな力があるとは……だが、そうだ落ち着け。

 まだ今は、この魔界や異世界についての地理や歴史、他にも地球には無かったような概念など一般常識を知ることの方が先だ。そうでないと、思わぬところで失敗するだろう。


 ゲームなども人によっては、ヘルプやチップス集などのマニュアルを何も読まずに始め、ゲームを進めながらその中で覚える人がいる。やりながら覚えることそれ自体は良いことだが、何も読まずにというところがダメだ。今シーラが説明してくれたように、魔法によっては1日1回しか使えないとか、魔王以上しか使えないとか、そういう重要なことを逃してしまうからだ。

 その点、オレはゲームをする際にもまず始めにマニュアルを粗方読んで、分かるところは最初から頭に入れておく。そうすることで、初めは読んで分からなかった内容も、最初にそのマニュアルを読まなかった者よりもゲーム内で一層その理解は深まる。

 しかし、それでも実際この魔法を体験してしまうと、一度沸き起こってしまった自らの期待と興奮する気持ちというものは、中々容易には抑えることができない。特に、いずれ自分も使用できるようになるという専用スキル……その特有魔法についても。


「オレの傲慢の魔法か……一体どんなものか楽しみで仕方がないぞぉっ」

「ふふふ……もうわたしにはそれがどんなものか、その一端が大体分かりましたけどねぇ……」


 え……今なんと言ったんだ?

 彼女はすでに分かった……だと?

 そんなはずは無いだろう。オレも自称ゲーマーとしてゲームの攻略などには多少自信がある。そんなオレでも分からないのだ、それをまさかこんな少女が……。

 先ほど茶化されたお返しとして、またそんな冗談を言ってきたのだろうと思い、その時のオレは軽く流してしまった。

 そうこうしている内に、ようやく地面は元通り平たくなり、シーラの家(喫茶店)の修復がある程度済んだようだ。


「さぁ、できましたよ。それでは、一旦室内に入ってゆっくりしましょう……」




 ……先ほどよりもどこか少し不完全な彼女の家に入ると、パジャマの上着も破け散り上半身裸で素足だったオレに、シーラが服と靴を用意してくれた。

 靴は薄手の革製のようなブーツで、服は茶色の長い布地で腰の辺りをひもで結ぶ、いわゆる布の服的なアレだ。

 建物のパーツがいくつか足りなかったのか、まだ家の壁や天井には所々に穴が空いている。

 どうやら建物は70%くらいは修復できたそうだが、所々で物が無くなってしまっているらしく、とりあえず今はこの服装で我慢してくださいねと、シーラが申し訳なさそうにしていた。

 やや傾いている切り株のテーブルにつくと、彼女は新しいコーヒーを用意して来てくれた。

 その味は香ばしく、オレがいつもよく飲み慣れ親しんでいた、あの地球のコーヒーそのものである。


「いやぁ、まったく本当に悪いなぁ何から何まで……しかしだな、なぜ魔界にコーヒーがあるんだ? オレも好きだし、いいんだけど……」

「ふふふ……地球とまったく同じ素材や製法では無いんですが、こうして魔界でも作ることができるんですよ。この植物の種子を焦がして作られた飲み物を、わたしはとある筋から情報を得て作ることに成功し、それを初めて飲んだ時には感動しましたぁ。それに、この禍々まがまがしい暗黒の色合いが、またいいじゃないですかぁ……」


 そう語ったシーラの表情は、まるで太陽に雨雲がかかったように暗く妖しい笑みを湛えていた。

 コーヒーの良さに対する観点というものが、何やら少し違う気もするが……。


「あ……あぁ、そ……そう、だねぇ……」


 地球ではアラビア半島から伝わって来たとされるコーヒー、その歴史は……。

 17世紀の中世ヨーロッパにおいて、確かに古くからその黒い色合いからも悪魔の飲み物と呼ばれ、良いコーヒーは悪魔のように黒く地獄のように熱い……などと言われていたらしく、宗教上の理由からも一般の庶民が手を出しづらい飲み物だったそうだ。

 ところが、時の権力者が試しに飲んでみたところ、これが非常に美味しかったので彼が気に入って許可し、その後から広く普及し始めたんだとか。

 まさか本当に悪魔の好物だったとはな……。


「ちょっと、ボクは休みながら話を聞くニャ……むニャむニャ……」

「おやすみナナコ」

「おやすみナナちゃん」


 ナナコは、眠たそうにシーラの膝の上にストンと乗っかりそのまま寝転ぶ。

 これまでオレ以外に懐くことはなかったが、すっかり彼女のことも気に入ったようだ。


「可愛いですよね……ナナちゃん。名前は誰が付けたんですか?」

「あぁ、オレだ。ちょっと恥ずかしいんだが、名前の由来は憧れの女優さんから取って名付けたんだ。あっ、女優って言っても……分からないよなぁ?」

「あの人ですか? 確かに美人さんですねぇ」


 なにっ、そんなことまで知っているのか?

 そういえばさっきも、なぜかシーラはオレが書いた地球……それも日本の漢字を読んでいた。

 あの時はここが魔界だという話も、彼女やオレが魔族だという話も信じていなかったが、シーラは地球や日本についての知識があるようだ……。

 どこで……そして、どうやってそれを知り得たのかオレは思い切って尋ねてみた。


「〈魔界大図書館〉というところがあるんです。そこでわたしは地球上の言語や文化など、そこに納められていた文献を読み学習したことがあるので、ある程度は分かりますよっ」


 彼女は得意気な表情で、前に出した右手の親指を上に突き出した。

 なるほど……コーヒーもその文献とやらが、とある情報筋の出処という訳か。

 うぅ……ん、地味に気になる。すると地球というか日本の文化が、あの街やこの家にも所々で見え隠れしているのはそういうことか……。


「ちなみに魔界広しとはいえ、大魔王様をこの世界に召喚できるのは、嫉妬の魔王であるこのわたしだけなんですっ。そして、召喚した時には対象の人物の姿が見えるので、通常はその指定したところに呼び出せる。はずだったんですがぁ……」

「そこで何かトラブルが発生した。確かそんなことを言っていたなぁ……」

「はい、そうなんですよぉ……」


 そう言うと、シーラは首を傾げて考え込んだ。

 うぅ……ん、トラブル……か。

 そう言われてみると、オレがこの魔界に呼び出された時、あの街に来る前だ。

 たしかオレが寝ようとして眠りに入ったところで、彼女の声が聞こえて……いや、その前にも何かが聞こえたような気がする。

 うぅん、ダメだ……あの時の意識がはっきりとしていなくて思い出せない。


 まぁいい、これ以上深く考えても分からないし……まずオレはどうして、そう……そもそも一体なぜ大魔王は地球から選抜されるんだ?

 魔族なら、あの街やこの魔界にいくらでもいるだろう。それもオレなんか日本のごく普通の……いや、むしろ落ちぶれている分類の人間で、両親も至って普通の人間だぞ。

 オレはに落ちなかったその一番の疑問を、シーラに問いかけた。


「確かにそれは疑問に思うでしょうね。その理由は、魔界の古代史に由来しています。ここからは少し長い話になるんですが……」



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