第3話
三
「ああ~早いもので、今年もあと2ヶ月弱ですね~!
私の写真の方は、相変わらずですが…。」
11月。俺たちは、相も変わらず「理想の写真」を追求していた。
「ああ~ダメだ…。この紅葉の写真、きれいなんですけど、何かが、足りないんですよね…。」
「何かって何だよ?」
「ちょっと~前にも同じようなこと言いましたが、それが分かれば苦労はしないじゃないですかっ!」
「まあ、俺も写真を一応本格的にやってるから、気持ちは分からなくはねえけど…。」
…まあそんな感じで、俺たちはまだ「理想の写真」には、出会えていない。
そして、ここにある1つの「決意」をした、俺がいる。
その「決意」とは―。
「理想の写真」、「ベストショット」が撮れたら、俺はこいつ、藤野智子に告白をする、ということだ。
それは本当に、いつになるのか分からない。もちろん年内に撮れる可能性もあるが、場合によっては、年をまたいでも、「理想の写真」に出会えないということもある。(と言うか、そっちの確率の方が高い、気がする。)
でも、もしそうなっても、俺はこう言うだろう。
『仕方ねえから、お前の『理想の写真』探し、もうちょっと手伝ってやるよ。』
と。
そして、そいつが本当に、心から納得のできる「理想の写真」に巡り逢えたら―。
俺はそいつに、「好き」と伝える。
俺の想いが、そいつに届くかどうかなんて、分からない。でも、それでもいい。俺は、自分の中に芽生えた気持ちを大切にして、さらに、そんな気持ちにさせてくれたそいつのことも、大切にしたい。
もちろん、できれば、そいつには俺の彼女になってもらいたい、ってのが本音だが。
「あ、牧野さん、さっき私のこと、見てました?
もしかして、私のこと、好きになりかけてます?」
「いや、好きになんかなってねえし!」
そいつの急な質問に、俺は本心を隠して、そう答える。本当は、今すぐ「好きだ!」と言ってしまいたいのであるが、ここは我慢しなければならない。俺は、そいつが納得できる1枚を撮り、心からの笑顔を見せた時に、作戦を決行する。そう、心の中で決めている。
そしてその11月も、俺たちは色々な所へ行った。紅葉はもちろんのこと、都会のビル群や、(意外かもしれないが)秋の海にも、俺たちは出向いた。そして、そこで俺たちは大量の枚数の、写真を撮った。
「どうだ?『理想の写真』、あったか?」
「ごめんなさい。まだですね…。」
ともかく俺たちは、そんなことを繰り返していた。
そしてそんなある日、「事件」は起こる。
その日は、「原点に帰ろう」ということで、また、紅葉を撮りに出ていた。(まあ、何が原点なのかは分からないが。)
「やっぱり私、日本人ですね。紅葉を見ると、何だか落ち着きます。」
「まあ、気持ちは分からなくはねえよ。」
俺たちはそんなことを言いながら、写真を撮っていた。そして、そんな時、急に―。
そいつが、倒れた。
俺はそいつの意識がなくなった瞬間、頭がパニックになったが、その後落ち着いて、119番通報をした。そして、そいつは病院に搬送されることになった。
「おい藤野、大丈夫か!?」
そいつの意識が戻った後、俺はそいつに尋ねた。
「いや~大丈夫じゃないですね~。」
そいつの口調は冗談めいたものであったが、俺には、その背後に、ただならぬ気配があるのを、うっすらと感じとった。
「…冗談だろ?」
「…ごめんなさい牧野さん。私、牧野さんに隠してることがあります。
実は私、余命宣告を受けているんです。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます