第2話
二
「ここ、ホントにきれいですね!やっぱり、お寺って、いいですね!」
俺、牧野高志と藤野智子は、その日は理想の写真を撮るために、近くの寺に来ていた。
「私、一眼レフの使い方、うまくなってません?」
何でも、そいつは理想の写真を撮るために、一眼レフまで購入したそうだ。
「いや、まだまだだよ。
ここの寺の暗さなら、ISO(イソ)感度を上げるのがセオリーだけど、この写真、ISOを上げすぎてざらつきができてる。俺なら、もっと自然光をうまく使って、被写体を撮るけどね。
…ほら、こんな感じ!」
「え、せっかくISOの勉強したのに~!
私、初心者なりに頑張ったんですよ!
でも、牧野さんの写真、やっぱりすごいなあ…。」
俺は、写真をモニターで見た後のそいつにそう言われ、満更でもない気分になった。
「まあ初心者にしては、よく勉強してるかな。あと、シャッタースピードなんかも、工夫した方がいい写真は撮れるね。」
「もちろん!私、シャッタースピードに関しても、勉強しました!例えば遅いシャッタースピードで、わざとブラした写真なんかも、趣があっていいですよね!」
「ま、まあね…。」
「私、頭はいい方だと思うんで、その辺の飲み込み、早いと思うんです!」
「…ってか、前から思ってたけど、藤野って自慢多いよね?」
「え、そうですか!?私、自分に正直なんで…。」
―おいおい!
俺はそう思ったが、それを口に出すことはしなかった。
「…とりあえず、今日もいっぱい撮ったけど、理想の写真、撮れた?」
「いや、全然ですね…。私の腕前を持ってすれば、すぐに撮れると思ったんですが、なかなか難しいです…。」
―おいおい!
本日2度目である。
「でも、写真ってそれだけ、奥が深いってことですよ、ね?」
「そう、その通り!写真はそんなに甘くねえよ。」
「あ、今私、プロの写真家志望の方に『その通り』って言われました?やった!」
「いやいや、大して褒めてねえし…!」
「まあ、とりあえず今日は帰りましょうか。」
「そうだな。」
そう言って、その日はお開きとなった。
その日以降も、俺たちの「理想の写真」巡りは、続いた。俺たちはその間、ある時は神社仏閣、またある時は山や森など、あらゆる所を巡り、何枚も何枚も、写真を撮り続けた。しかし―。
「ああ、今日も『理想の写真』には出会えませんでしたね。」
「そっか。
ところで藤野、お前の言う、『理想の写真』って、どんなのだよ?」
「…それが分かれば、苦労はしないじゃないですかっ!」
「まあ、それもそうだな…!」
俺たちはそう言って、笑った。
まあとりあえず、その何なのか分からない『理想の写真』に、俺たちはまだ出会えていない。それだけは確かだ。また、そうこうしているうちに、月日は流れ―、
11月になった。
「11月になったら、紅葉も見頃になるし、『理想の写真』に1歩、近づくかもな!」
俺はそいつにそう言った。そして言いながら、俺は気づいたことがある。
そいつの笑顔は、よく見るととても魅力的で、まだあどけなさも残り、また天真爛漫な様子も、伝わってくる。また、そいつのいつもの自慢話も、そいつの性格も相まってか、嫌味には聞こえない。
また、そいつは確かに頭はいいらしく、俺が教えた写真の技法を、どんどん吸収していっている。そしてそれ以上に、そうやって物事を学ぼうとする姿勢、貪欲な姿勢は、尊敬に値する、と俺は思う。
それに―。
これは気のせいかもしれないが、そいつにはどこか、「影」があるように感じられる、俺はそう思う時がある。そいつの笑顔は魅力的だが、それには何か影があり、また必死に写真のことを覚えようとする姿も、少しではあるが悲壮感を漂わせているように、感じられなくもない。
―こいつは、本当に写真を楽しんでいるんだろうか?
いや楽しんでいるのは分かる、分かるけど、何か悩みごともあるんじゃねえかな…。
俺はそいつを見て、そう思うことがある。
繰り返すが、俺にとってそいつは、タイプの女の子ではない。でも―。
「あっ、今私のこと、かわいいと思いませんでしたか?
一応確認ですが、
私のこと、好きにならないでくださいよ…!」
「べ、別になってねえし…!」
俺はそいつにそう言われ、とっさにそう答えた。
でも、俺ははっきり言える。
俺はこの、タイプでも何でもない女の子、藤野智子に、
恋をしてしまった。
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