第6話 採取

 街を離れて、俺たちは再び草原に戻ってきた。


「そりゃああああああ!!!!!」

 ボロ剣でスライムを切りつける。

 すると、泡状になり消えた。


〈南雲灯は0経験値と2コシルを獲得した〉


〈鶴岡美乃梨は100経験値を獲得した。南雲灯への好感度が100上がった〉


 そして例のごとく、俺は経験値を得られなかった。


 そんな俺をよそに鶴岡はというと……。


「はあああああ!!!!!!」

 犬に羽が生えたモンスターを杖で叩いて、次から次へと倒していた。

 その都度その都度、経験値が上がっていく。


 そういや、あのモンスターの名前なんていうんだろう?

 街に戻ったら、モンスター図鑑を買わないとな。


 そうこうしてる間にも、鶴岡はモンスターを次から次へと倒していた。

 くっそ、あいつばっかり……。

 俺だって!



 俺は、近くにいた犬型の例のモンスターに向かって駆けた。

 俺に気づいたモンスターは、翼を逆立てて警戒心を露わにする。

「うおおおお!!!!」

 飛んできたモンスターの顔面を剣で切りつける。

 しかし、それではモンスターは霧散せず、再び襲い掛かってくる。

「やっぱり、俺のレベルでは簡単に倒れてくれないか」

 その後も、モンスターを切りつけるが、一向に消える気配がない。

 もしかして、ダメージほとんど与えられてないんじゃないか?

「くっそ、なんで俺だけ!」

 もう一度、切りつける。すると、ボロ剣は折れて先端が、どこかへ飛んでいってしまった。

「またか……」

 今回は、足に噛みつかれないように、後ろに下がって距離をとる。

「さて、どうやって倒そうか…」

 逃げても、追いかけてくるだけだろう。

 かと言って、使える武器もない。いったい、どうしたものか。


 そうこうしている間に、モンスターが攻撃を仕掛けてきた。

 すごいスピードで、俺をめがけて突進してくる。

「っ!」

 避けきれず、爪が腕に引っかかり、軽く切れる。その瞬間、身体がよろけ隙を狙って、モンスターが懐に突進してきて、俺の身体は飛ばされ、地面を転がる。

「ぐはっ!!!!」

 背中にじわっと、熱い感覚が広がる。防具がないせいで、地面を転がったときに背中が切れたのだろう。

 後から、ものすごい痛みが込み上げてきた。

「くっそ、俺じゃ倒せないのかよ………」

 あまりの痛さに、意識が遠のいていく。


 こりゃ、死んだかな………。

 すまんな、鶴岡。お前を一人にしちまう……。でも、お前にとっては俺がいなくなる方が良いんだろうな……………。


 視界が暗くなり、意識が途切れた。






「……っん」

 目が覚めると、木組みの天井が目に入った。

 どうやら俺は、どこかで仰向けになっているようだ。

 そうか、なんとか助かったのか。


「よかった!生きてたぁ~」

 声がして、横を見ると、心配そうに俺を見つめている美少女がいた。

「美少女が、俺のことを介抱してくれてる、もしかしてここは天国なのか?」

 俺の人生において、美少女が介抱してくれるなどありえない。結局俺は死んでしまったのだろうか。

「び、びびびびびび美少女!?」

 隣の美少女が、恥ずかしそうに甲高い声を上げた。

「てか、介抱なんてしてないし!勘違いしないでよね。あんたに死なれたら、この世界から出れないと思ったから、仕方なく助けただけなんだから」

 なんか、このとげとげしい物言い、記憶にあるような……。


 だんだんと、意識が戻ってきて、視界が開けてくる。


「んあ?お前、鶴岡か…?」

 視界が開け、ようやく美少女の姿がハッキリと認識できるようになった。

 俺がずっと心優しい美少女だと思っていたその子は、何を隠そう鶴岡だった。


「何よ、急にガッカリした顔して」

「いや、だって美少女の正体がお前だったから…」

「はいはい、悪うございましたね!……でも、美少女だとは思ってくれたんだ……」

「ん?なんか言ったか?」

「な、なんでもないわよ!」

 何を怒っているんだ、こいつは。

 でも、死にかけているところを助けてもらったわけだし、しっかり礼は言わないとな。

「ありがとな」

「何よ、急に」

「瀕死のところを助けてくれたんだろ?」

「だ、だからあれは、あんたがいなくなったらゲームとか慣れてないあたしじゃ、元の世界に戻れないと思ったから助けたの。別にあんたのためじゃないんだから!」

 なんでこいつが、俺なんかにツンデレになってるんだよ。

 調子狂うな…。好感度なんて上げなくていいから、俺に経験値をくれよ。

「てか、なんで無理したのよ!後ろで、私の戦いを見てなさいって言ったでしょ!?弱いんだから、無理しないでよ」

 そう怒鳴りつけてくる鶴岡の目には、涙が溜まっていた。

 そっか、こいつはこいつなりに俺のことを心配してくれてたんだな。

「すまん。なんか、お前ばっかりモンスター倒してるの見てると、なんて自分は無力なんだろうって思っちまった。すまんな、迷惑かけて」

「ふんっ!わかったならいいわよ」

 そう言って鶴岡はそっぽを向いて、ゴシゴシと目元を腕で拭っていた。


「そういえば、ここってどこなんだ?お前もローブ脱いでるし、宿舎か?」

 ベッドに寝かされてるし、鶴岡も制服姿になっているところを見ると、宿にでもいるのだろう。

「そうよ。昼間にレストランのおばちゃんに紹介してもらった宿。でもあのおばちゃん、私たちをカップルって紹介したらしくて、一部屋しか用意されてなかったのよね」

「は!?てことは、今夜はお前と同じ部屋で寝ろってことか?」

「同じ部屋ってか、そのベッドしっかり見なさいよ」

 そう言われて、俺は寝ていた身体を起こし、今まで眠っていたベッドを見る。

「なっ!?」

 そのベッドは、一人で寝るには大きく、枕が二つ並べられていた。

 いわゆる、ダブルベッドってやつだ。

「部屋で二人どころか、一つのベッドで二人で寝ろってことよ」

 なんてこった……。よりによって、こいつと同じベッドで寝るなんて…。

「絶対に、変なことしないでよね。魔法でぶっ飛ばすから」

「するわけないだろ!なんでお前なんかに、欲情しなくちゃならねぇんだ。てか、魔法はやめろ、まじで死んじまうから」

「なんなのよ!それはそれで失礼ね!ちょっとぐらい欲情してもいいじゃない!」

 どっちだよ……。


 その後、お互いに大浴場でお風呂を済ませ、寝ることになった。


 浴場から戻ると、鶴岡はまだ帰って来ておらず、部屋には誰もいなかった。


「315コシルっと。あいつ、大分稼いだんだな」

 眠る前に、アイテムポーチの中に入っていたコシルの数を数えていると、浴場から戻った鶴岡が部屋に入ってきた。


「ねぇ、南雲……。どうしよう………」

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