第5話 買い物

『買い物』という単語に、女子高生はとても興味を惹かれるらしい。

 俺が買い物に行こうと言うと、さっきまで俺に付いて来ていた鶴岡が、ルンルン♪とスキップ気味に先導して歩き出した。


「おい、すげぇ嬉しそうだけど、どこに何があるのか分かってんのかよ」

 文字も全く読めないのに、異世界ファンタジーに耐性がないあいつに買い物なんてできるのだろうか。

「だから、あんたも早く来なさいよ!」

「お、おう」

 あいつから、俺を誘ってくるだと?これも、好感度がなせる技なのだろうか?それとも、買い物という魔法の単語の仕業か?


「ねぇ、まずは何から買いに行く?」

「そうだなぁ、俺の武器も折れちまったし、武器を買いに行くか」

 新しい武器を買いなおさないと、この先戦えなくなって詰む。

「んじゃあ、あそこかな?」

 そう言って鶴岡が指をさしたのは、剣や杖、ローブなんかが並べられてる露店だった。

「そうだな、まずはあそこ見てみるか!」

 俺たちは武器屋と思われる店で、装備品を見ることにした。


「おう!いらっしゃい!冒険者かい?」

 俺たちに気付くと、禿面にガタイの良い強面こわもての中年のおじさんが声をかけてきた。おそらく店主だろう。

「はい。ここって武器屋ですか?」

「そうだな。うちでは、武器と防具を扱ってる。何でも見てってくれ。っておや?二人ともアイテムポーチは持ってないのか?」

「アイテムポーチ?」

「あれだよ、あれ。みんなが腰に巻いてるやつ」

 そう言って店主は、街を歩いている人たちを指さした。

 見てみると、待ち行く人々はみな、腰にベルト状のポーチを付けていた。

「あれがあるとどうなるの?」

 質問したのは鶴岡だ。

「あれがあると、道具を管理しやすくなる。コシルと道具が無限に入るって寸法だ」

 逆にあれがないと、冒険がしにくいってことか。道具の管理は必要だもんな。

「でも、あのポーチってどこで買えるんですか?」

「そうだな。じゃあ、武器を何か買ってくれたらおまけでアイテムポーチつけてやろう」

「えっ!?いいんですか?」

「おう、その代わり何か買っていってくれよ」

 そういうことなら、買っていこう。たぶん、お得だ。


「ねぇねぇ、おじさん、私は何買えばいいの!?」

「そうだな、嬢ちゃんは見たところ魔法師だろうから、魔法の杖だろうか。そこにある杖から選んでみな」

 そう言われて鶴岡は、杖を物色し始めた。

「じゃあ、俺は剣だな」

 俺も、剣が並んでる棚を物色する。

 はじめに装備していたボロ剣から、良く刃が磨かれた綺麗なものまで多数並べてある。

「よしっ!これなんてどうだ?」

 ボロ剣の3つ先に並べられた、刃がしっかり研がれた大きめの剣を手に取ろうとした。

「んがっ!?」

 触ろうとした瞬間、青色の電撃が弾け、右腕に衝撃が走った。

「あぁ、兄ちゃん。それはシンプルな剣中級だ。レベルが5にならないと装備できないぞ」

「えっ!?そうなんですか?」

 まさか、レベル制限があるとは……。

 てことは、俺の装備できる剣って……。

「ちなみに、兄ちゃんレベルは?」

「えっと……。1です……」

「はっはっは。それじゃあ、ボロ剣しか装備できねぇなぁ。ちなみに、防具を装備できるのはレベル3からだぞ」

 てことは、俺はまたボロ剣を装備して、防御力0のままで冒険しなければならないってことか?うそだろ……。


「店長~!私これにする~!」

 そう言って、キレイに磨かれた、強度の強そうな杖を持って鶴岡が出てきた。

「あらっ、南雲はボロ剣しか装備できないのね」

 ふっと、俺のことを小バカにした顔で見下してくる。

「まっ、あんたは私の後ろで戦闘を見てなさい」

「ちっ、今に見てろ。すぐにお前のレベルなんか抜いてやる」

「まぁ、それは良いとして。防具ってやつ選んでくれない?」

 そういえば、こいつはゲームの知識がからっきし無かったんだったな。

「よしっ!俺が選んでやろう!」

 ここでくらい、俺に良い恰好をさせてもらうぜ。

 やはり魔法使いといえば、魔力を高めてくれるローブだろう。


 俺たちは、ローブが陳列されたエリアで、鶴岡に合いそうなローブを探すことにした。


「おっ!これなんてどうだ?」

 そう言って、黒色のいかにも魔法使いという感じのローブを手に取ろうとして……。

「痛っ!痛い痛い痛い痛い!!!!」

 触れようとした右腕に衝撃が走った。

 そうだった。俺は、防具は何一つ触れないんだったな。

「ふっ、馬鹿ね。それに、そんな黒いの着るわけないじゃない」

「なんでだよ?」

「可愛くないからよ!」

 なんだ、それだけの理由か……。

「じゃあ、どれが良いかな…」

「そうねぇ……」

 ちらっと横を見ると、真剣にローブを選ぶ鶴岡の顔が目に入ってきた。


 あれ?これって、女の子と服を選んでることと同じになるんじゃないか?

 もしかして、これってデートと同じ……。


 そう思うと、途端に恥ずかしくなってきた。


「ねぇ!これなんてどうかな?」

「うおっ!?お、おう、そうだな。いいんじゃないか?」

「ん?何、動揺してんの?」

「べ、別に同様何てしてねぇよ」

「ふーん。じゃあ、ちょっとこれ着てみんね」

 そう言って、鶴岡は手に取ったピンク色のローブを制服の上から羽織った。


 可愛い女子高生が、制服の上からパーカーを羽織っている姿を想像してほしい。

 それは、とても可愛らしい。

 鶴岡もそれだった。


「どう、かな?」

 いわゆる萌え袖を作り、頬を赤らめながら可愛らしく聞いてくる。

「そ、そうだな。似合ってるんじゃねえの?」

「そっか、良かった」

 ん?なんだ、素直に喜びやがった?普段なら絶対「は?私に意見しないでくれる?超キモイんだけど」って、言ってくるはずだ。

 あぁ、そうか。これも、好感度レベルのせいか。くそっ、やりずれぇな。


「って、何じろじろ見てんのよ!見てくんなっての!」

「お前が感想聞いてきたんだろうが!」

「ふんっ!とりあえずこれ買ってくるから!」

 そう言って、杖とローブを持って店長の元へ向かおうとする。

「ちょっと待て、コシル持ってるの俺だろ。俺もこれ買うから、ついでに買ってきてやるよ」

 俺は鶴岡の持ってるものを少し強引気味に預かり、店長の元へ持っていく。

「これ下さい」

「はいよ。合計23コシルだ。それと、これはおまけのアイテムポーチな」

「ありがとうございます」

 俺は、23コシルを払い、商品を受け取った。

「毎度あり。じゃあ、彼女とうまくやれよ」

「そんなんじゃないです!」


 店長にお礼を言い、店から少し離れた先で待っていた鶴岡に、アイテムポーチと杖、ローブを渡した。

「ん。ありがと」

 そう言って、鶴岡は早速装備した。


〈鶴岡美乃梨の攻撃力が10上がった。魔法力が20上がった〉


 頭上に、モンスターを倒した時と同様に頭上に文字が表示された。

 魔法使いだから、防御力は上がらないようだ。


〈南雲灯の攻撃力が2上がった〉


 俺は2しか上がらないのかよ!てか、ボロ剣弱すぎだな。


「そうだ、もう宿に移動する?」

「いや、さっきの買い物でコシルがほとんど尽きちまった。モンスターを狩って、コシルを稼ぎに行こう」

「あぁ、そうなんだ。ま、モンスター狩るのは私だけどね」

「あっ!?俺も、狩れるは!」

「効率は悪いけどね」

 くっ、今に見てろ。絶対お前より稼いでやる。

「じゃあ、さっさと移動しましょ」


 そうして俺たちは、一度街を離れ、元居た草原へと移動した。

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