第4話 発見

 今まで、経験値のことばかり気にしてて、鶴岡に付与されている他のポイントにあまり目を向けていなかったが、この『好感度』ってのは、俺たちがモンスターを倒すたびに鶴岡に付与されて、俺へ関心を寄せていくのか……?


「な、なに見てんのよ!キモイ目、私に向けないでくれる!?」

「いや、見てきてんのはそっちだろ」

 まさか、こいつが俺に好感を寄せてくるなんて、そんなことがあるのか…?


「ちっ!見てくんなって言ってんでしょ……あっ!あれ見て!」

 鶴岡は不快そうに眼をそらし、何かを発見したように指を指す。


「あ、あれは……」

 鶴岡の指さす方を見やると、そこには先ほどまでなかった街が広がっていた。

「ねぇ、さっきまであんなところに街なんてなかったわよね?」

「あぁ。そうか!さっきのモンスターが鍵だったんだ」

 あのモンスターを倒すことによって、街が現れる仕組みになっていたのか。

「つまり、あのモンスターを倒したおかげで、街が現れたってこと?」

「おそらくな」

「へぇ。つまり、私のおかげで街に行けるってことね!ヘボい南雲は、この私のおかげで街に踏み入れられるのよ」

「はぁ!?そりゃ俺はレベル1だが、お前こそ俺がいなかったら、この世界に順応できなかっただろ!」

 そりゃ俺だって、レベルが上がるのなら自分であんなモンスター倒してたっての。

「ふん!言ってなさいよ、そのうち私に感謝するときが来るから」

「はん!それまでにレベル上げて、自分でもモンスターの1匹や2匹倒せるようになってるさ」

「どうだかね」

 くそっ、本当にこの女は、鼻につくことばっか言ってきやがるな。

「まぁ、いい。さっさと街まで行こうぜ」

 早くこの世界のことについて聞き込みをしなければならない。



 俺たちは、大きな門をくぐって、街へと入った。

 街は、雑貨屋や武器屋、レストランから宿屋まで様々な店が軒を連ねていて、多くの人で賑わっていた。ちなみに人間たちにケモ耳やしっぽは生えておらず、俺たちのように普通のいでたちだ。


『ぐぅ~~~~~~~!!!』

 街に入ってしばらく歩いていると、横からそんな音が聞こえてきた。

 横を見ると、鶴岡がおなかを抑えながら、顔を赤らめて俯いている。

「お前、腹減ってんの?」

「へ、減ってないし!」


『ぐぅ~~~~~~~!!!』

 また鳴った。

「ほら、やっぱり減ってんじゃねぇか」

「う、うっさいはね!悪い!?」

 珍しく、俺に恥ずかしそうな顔を向けてくる。

「ま、別に悪くねぇよ。思えばもう、夕飯時だもんな」

 この世界は、太陽が高く昇っていてまるでお昼時だけど、俺たちは学校っから帰って、とっくに晩飯を済ませてる頃だ。それに、スライムたちを倒しまわってたから、俺も大分腹が減ってる。

「とりあえず、腹ごしらえしに行くか」


 とは言ったものの、看板に書いてある文字が全く読めない。


「ねぇ、街の文字何も読めないんだけど。ちゃんとレストランにたどり着くの?」

「いやぁ、どうだろうなぁ…。とりあえず、そこの店の人に聞いてみるか」

 良いにおいが立ち込める店の前で客引きをしている、中年のおばさんの風貌の女性に尋ねてみる。

「すいません、この店ってレストランですか?」

「おや、旅の人かい?そうだよ。ここは、肉料理の専門店さ。どうだい、食べていくかい?」

 良かった。どうやら、言葉は通じるようだ。


「おい、鶴岡どうする?この店にするか?」

「うんー。そうね、早く何か食べたいし」

 どうやら、もう空腹なことを隠す気はないようだ。

「じゃあ、お願いします。あっ、そういえば支払いって何ですればいいんですか?」

「この街では、コシルっていう硬貨で支払いができるよ。モンスターを倒した時なんかに貰えるでしょ。

 そういえば、経験値と一緒にコシルってやつがもらえてたな。あれが、この世界でのお金なのか。

「あれ?でもそれって、どこにあるんだ?」

 字面でコシルを手に入れていることだけは分かっているが、いったいどこにあるんだろう。

「ポケットを探ってごらん」

 そう言われて、俺はズボンのポケットに手を突っ込んでみた。すると、何か固いものに指が触れた。

 取り出してみると、500円玉ぐらいの大きさの金色の硬貨が出てきた。

「それが、コシル。一枚で1コシルだよ。うちの店では一番安い料理で、3コシルだね」

 確認してみると、ポケットの中にはコシルが30枚入っていた。

 というか、よくこんなに入っていたな。

「十分食べられるだけのお金あるじゃん!早く入ろうよ!」

 鶴岡が、俺のすぐ隣まで寄って来て、身を乗り出して手元のお金をのぞき込んでくる。よっぽどおなかが減っているのか、口調もどこか優しく、弾んでいる。

 経験値は入らないが、お金は俺の元に入るのか。

「じゃあ、食べていきます」



 俺たちはおばちゃんに案内されて、お店の奥にある席に座った。

 周りを見渡してみると、お客さんも大勢入っていて、なかなか繁盛しているようだ。


「ねぇ、やっぱり読めない」

 メニューを広げて、鶴岡が眉をひそめて言ってくる。

 俺もメニューを広げて確認してみたが、やはり読めない。


「注文は決まったかい?」

 しばらくメニューとにらめっこしていると、おばちゃんがお冷を持ってきてくれた。

「えーっと、一番安いメニューをお願いできますか?」

「そうかそうか。字が読めないんだったね。お嬢ちゃんはどうする?」

「んー、私も一番安いやつで良いかなぁ。この先何にお金が必要か分かんないしね」

「わかったは。じゃあ、すぐに用意するから、ちょっと待ってて」

 注文を受けたおばちゃんは、キッチンへと戻っていった。


「意外だな」

「何がよ?」

「いや、お前のことだから、てっきり一番高い料理注文するかと思ったから」

「バカじゃないの?そんなことしたら、この先何も出来なくなるでしょ」

 へぇ、こいつも案外しっかり考えてるんだな。

 って、何感心してるんだ俺は。


 しばらく待っていると、おばちゃんが熱々の鉄板の皿に乗ったステーキを運んできてくれた。

「おぉ!うまそう。これは、なんの肉なんですか?」

「これは、エブルゴアっていう草食系モンスターの肉よ」

 現実世界で言うところの、牛みたいなものだろうか。

「じゃあ、いただきます!」

 俺は、ナイフで肉を切り、フォークで口へと運び込む。

「んんっ!うまい!!!」

「うぇー、あんたよくモンスターの肉なんて食べれるはね。要は、さっき倒してきたようなバケモンの肉でしょ?」

「いやいや、すげぇおいしいってこれ!お前もそんなこと言ってずに食べてみろよ」

「いや……」

『ぐぅ~~~~~!!!』

 空腹にはあらがえなかったようだ。鶴岡も観念したように、エブルゴアの肉を口に運び込む。

「んっ!なにこれ、すごいおいしい!」

 よっぽどおいしかったのか、せっせと肉を切り分けて口の中に運んでいく。

 そう、この肉はとてもいおいしい。空腹も手伝っているのだろうが、本当に牛肉のようなおいしさで、異国の食べ物という不快感が全くない。


「そうだ、兄ちゃんたちはどこの国から来たんだい?」

 ごはんを食べ終えたところで、おばちゃんが皿を回収しに来てくれた。

 そういえば、俺たちはどこから来たってことにすればいいんだろう…。

「えっと、ニッポンって国からやって来ました」

「聞いたことない国だね」

「えっと…、極東にある国なんです。人口もすごく少なくて、面積も小さいので、世界地図にも載ってることはめったにありません」

「なるほどね、だから知らないわけか」

 良かった。どうやら、ごまかせたらしい。

「そういえば、ここは何て国なんですか?」

「ここは、メルセナさ。民主主義の国で、社会保障も手厚くてとても生活しやすい国だよ。装備品や道具も豊富に揃っていて、旅の勇者さんたちはまずこの国に寄って、冒険の準備をしていくね」

 ここが始まりの町といったところか。

「そうだ、あんたたち宿は決まってるのかい?今日はこの街に泊っていくんだろ?」

 そうだな、今日のところはこの街に寝泊まりして、明日からの計画を立てなくちゃいけない。

 鶴岡の方を見ると、軽くうなずいてきた。

 この街に泊ろうということだろう。

「はい。そうしたいと思います。でも、宿は決まってなくて……」

「そうかい、じゃあ、知り合いに宿を経営してる人がいるから、紹介してやるよ」

 はいっと言って、おばちゃんは宿の地図が書かれた紙きれを渡してくれた。

「宿主には私から連絡入れとくからね」

「何から何までありがとうございます」



 俺たちは、6コシルを払って店を後にした。


「ねぇ、これからどうすんの?」

 そうだなぁ、まだ日は高いから、宿に行くのはちょっと早いだろう。

 まずは、冒険を始めるためにも、装備をそろえる必要があるだろう。俺の剣も折れてしまったし。


「じゃあ、買い物でもするか」

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