第2話 獲得経験値ゼロ

「さて、状況を整理しようか」

 異世界に飛ばされたこの状況を、まずは整理しないといけない。

 だと言うのに……。


「ちょっと待ちなさいよ!なんであんた、平然としてるわけ⁉︎どこだかわからないとこに連れてこられちゃったのよ?もっと動揺しないわけ⁉︎」

 鶴岡つるおかが、やいやいとうるさい。


「いや、そりゃ俺も驚いたよ。だって、異世界転生を身をもって体験したわけだからな。でも、異世界ファンタジーの世界ではこんなことはあたり前だからな。そんなこともあるのかなぁって」

「ファンタジーの世界と一緒にしないでよ!ここは現実世界でしょ⁉︎それに、どうしてここが異世界って分かるのよ?」

「いや、だってほらあれ」


 俺はそう言って、前方100メートル先にいる液体状の物体を指差す。


「な、ななななな何よあの気持ち悪い物体!」

「恐らく、スライムだろうな」

「す、スライムって?」

 嘘だろこいつ、スライムも知らないのか?

 本当に、偏見だけで俺らのこと批判してるんだな。

「異世界にはどこにでもいる、雑魚モンスターだ」

「雑魚?で、でもどうやって倒すのよ?」

 そういえば、どうやってスライムと戦えばいいんだ?


 ふと、自分の腰のあたりに違和感を感じた。

「あれ?何か付いてる?」

 腰には、剣がぶら下がっていた。


 試しに鞘から抜いてみる。

 めちゃめちゃ軽い。よく見ると、錆びついたボロボロの剣だ。

「これが初期装備ってやつか」


「あっ、あたしにも付いてる」

 そう言って鶴岡は、背中から杖を引き抜いた。

 こちらもまたボロボロの杖だ。枯れていて今にも折れてしまいそう。

 杖ということは、鶴岡は魔法使いか。


「ねぇ、こんなボロボロの武器で、倒せるの?」

「最初はこんなのだって。スライムならこの装備で倒せる。最初のうちはスライムを倒して経験値を上げていくのさ」


 俺はスライムに向かって駆け出す。


「ちょっと待ちなさいよ!一人にするなぁ!」

 そう言って鶴岡も俺のことを追いかけてくる。


「おらああああああ!!!!くらえええええええ!!!!!」

 俺はスライムの前でジャンプし、剣を大根切りのように振り下ろす。


 ズシャッ!という音と共に、スライムは泡となり、消滅した。


「あれっ、本当に倒しちゃったの?」

 追い付いてきた鶴岡が、目を丸くして驚いている。

 ゲームをやったことがない人間にとっては、新鮮な光景なのだろうか。


『タラタター♪♪』

 そんな音と共に、頭上に文字が表示される。

南雲灯みなぐもあかりは0経験値と2コシルを獲得した〉

 なるほど、モンスターを倒すと獲得経験値が表示されるのか。

 まるでゲームの世界だな。


「やったー!レベル上がったー!」

 後ろの鶴岡がそんなことを言っている。

「は?」

 振り返ると、鶴岡の頭上にも、俺と同じように文字が浮かび上がっていた。


鶴岡美乃梨つるおかみのりは100経験値を獲得した。レベルが2に上がった。南雲灯への好感度が100上がった〉


「なんでお前がレベルアップしてんだ!?」

 俺は獲得経験値0だというのに。


「もしかして……」

 俺はもう一匹スライムを見つけて、駆け出す。

 先ほどのように大根切りで、倒す。


『タラタター♪♪』


〈南雲灯は0経験値と2コシルを手に入れた〉

〈鶴岡美乃梨は100経験値を手に入れた。南雲灯への好感度が100上がった〉


「やはりな…」

「どういうことなの?私だけ経験値?ってやつ獲得してるけど」

「おそらく俺たちは、パーティとしてみなされてるんだろう」

「パーティ」

「簡単に言うと、一緒に冒険する仲間のことだ」

 パーティで戦うということは、倒したモンスターから得られる経験値は、メンバーで振り分けられる。それが、なぜか俺には入らずに、すべて鶴岡に入っているのだ。

 しかし、鶴岡の関心はそんなところには無いようで。

「はぁ!?なんで、あんたと仲間になんなきゃいけないのよ!」

 ひどく俺とのパーティを嫌がっていらっしゃる。

「俺こそお前とのパーティなんてごめんだよ!」

「じゃあ、早く解散しなさいよ」

「言われなくてもしてやるよ!」


 鶴岡と同じパーティなうえに、モンスターを倒しても俺に経験値が入らないなんてごめんだ。


 しかし………。


「どうやって、解散するんだ?」

「は?なんでわかんないのよ」

「だって、ウィンドも現れないし」

 MMORPGなんかの世界では、腕を振ればメニューウィンドが現れるはずだが、いくら腕を振っても何も現れない。

 どうやら、ゲームの世界というわけではないようだ。


「え!?てことは…」

「しばらくは、このままってことだな」

「うそでしょー!」

 冒険を進めて、パーティ解散方法を見つけるか、現実世界に戻るまでは、どうやら鶴岡とパーティを組んでいなくちゃいけないらしい。


「おっと!」

 話していると、いつの間にか近づいて来ていたスライムが襲い掛かってきた。

 俺はそれをすんでのところで、横に飛んでかわす。


「そりゃああああ!!!!」

 剣を横なぎに振るい、スライムを切りつける。

 すると、泡状になって消滅した。


『タラタター♪♪』


〈南雲灯は0経験値と2コシルを獲得した〉

〈鶴岡美乃梨は100経験値を獲得した。レベルが3に上がった。南雲灯への好感度が100上がった。好感度レベルが2に上がった〉


 くそっ、また鶴岡だけ経験値が与えられえてる。

「ほらっ、行くぞ」

「行くって、どこに?」

「この世界から抜け出す方法を探しに行くぞ」

 こんな理不尽な奴と一緒にいるのはごめんだし、理不尽な経験値割もごめんだ。早くこの世界から抜け出そう。こいつとのパーティもそれまでの辛抱だ。


「わかった…」

 そう言って、鶴岡は俺の後を付いてきた。

 あれ?なんか、やけに素直だな。もう少し、反論してくるかと思ったが。



 こうして俺の異世界冒険が始まった。



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