第5話 riddle

 翌日は終業式だった。本来ならHRの後にダッシュで帰って遊ぶものだと思うが、時計を気にしながら急いでいる。昨日の発見に狂喜して卒倒しそうになるさゆりをなだめながら、多希は翌日の集合時間を告げた。夕歌はもう反発しなかった。葵も快諾して、今、急いで向かっている。教室を出るときにはもう多希の姿はなかったから待たせているかもしれない。職員室に用事があったのが災いした。

 恐る恐る開いた生物準備室のドアだったが、予想に反して中は無人。肩すかしだ、と息を吐いて、中に入るかどうか少し悩む。結局すぐに足を踏み入れた。今日は空調をいれていないようだ。昨日と同じ椅子に掛けて周りを見回す。小型冷蔵庫の上に伏せられたビーカーは多分食器代わり。冷蔵庫の向こう側にはシンクがある。普通の実験室にあるような狭くて深いシンクだがそこにおそらく百円均一あたりで買って来たのだろう、吸盤のついたスポンジ置きがある。給湯器も付けられているようだ。

 腕時計を見る。言われた時間を二分ほど過ぎているようだ。この様子だと全員遅刻か。待つのは別にそんなに苦にならないからいいけど、と、そう思っていたら、唐突にドアがスライドした。来たか、と思ったのも束の間、意外な人物の姿に驚いて目を見開くと相手も相手で驚いた顔をしていた。

「荒神先生…」

 担任の荒神優介だ。向こうも驚いたようで目を丸くした後でああ、と声が漏れた。

「キミが取り憑かれちゃったのね…」

 意味がわからない。きょとんとしていると荒神は困ったように笑いながら室内に入ってきた。

「お姫様三人。…宗像三姉妹って言ったほうが通じるのかな」

「ああ」

 それにしても取り憑いたとは物騒な言い方だ。しかしあの三人がこの教師を下の名前で呼んでいたことを思い出してちょっと納得する。

「じゃあ悪いんだけど伝えといてくれる」

「はい」

 荒神は困ったように笑って一枚の紙を出した。部活申請書、とある。そしてそこに、朱書きで不可、と大きく書き込まれていた。

「また村上先生に却下されたって言ってくれたらわかるから」

 じゃあ、ゆっくりしていってと言い残して荒神は部屋を出て行く。そこまで来てようやく葵はこの部屋の管理者が彼だったことを思い出した。

 引き戸が閉まる。再び一人になった。机の上に置かれたわら半紙をまじまじと見下ろす。部活申請書の部活名のところにはあのM歴C部なんていう単語が並んでいる。部活内容の欄を見る。神経質そうな尖った字が真っ直ぐ書き込まれていた。

(日本の神話と土着信仰…地元の歴史、地域文化、それらの研究)

 歴、は歴史の歴なんだろう。Mってのはなんだろう。この辺りはMが着く地名ではないし…。思っていたら、再びドアがカラカラと音を立てた。目をやると綺莉…と、綺莉に腕を掴まれてはいるものの明らかに逆の方向に向いている夕歌が居た。帰りたそうだ。あの様子では捕まったのだろう。でもなんというか、彼がいたほうが心強い気がする。ちょっとほっとした。

 綺莉は室内に彼を引きこむと、ドアを閉めて奥に追いやろうとする。観念したらしい夕歌は煩わしげにその手を振りほどいた。

 綺莉は葵を見る。

「一青瀬は約束を守るのだな」

 そう言った彼女は珍しく笑みを見せた。なぜだろうドキッとする。初めて見る顔だからだろうか。しかし、机上の紙を見た瞬間その表情はいつもの仏頂面に戻る。夕歌に座ってろと吐き捨ててから、彼女は部活申請書を拾い上げた。そのままくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げる。

「ユースケが来たのか?」

 葵は躊躇いがちに頷いて言葉を足した。

「村上先生に却下されたって伝言を預かったよ」

 言うと、綺莉はゴキブリでも見たような嫌な顔をした。

「本当ヤな奴。さゆりのメモを破ったのもあいつなんだ」

 葵は村上という教師を知らない。返答に窮していると、夕歌が答えた。

「ヤな奴ってのは同意できるな」

 夕歌は葵に習って昨日と同じ席に座った。口は悪いが意外と付き合いの良い人物のようだ。綺莉は夕歌が同意したことにも、素直に着席したことにも驚いたようで目を丸くしていたが、少し間を置いてぽつり、と愚痴を漏らした。

「ユースケの奴はあいつの言いなりだ。立場は同等だというのに」

 ちょっと寂しそうな顔をしている。それが何故なのかはよく解らなかった。聞くわけにもいかない。黙っていたら夕歌が妙な事を言い出した。

「ユースケって荒神か?あいつらは同等じゃないんだよ」

 夕歌は片口を釣り上げて笑う。綺莉は眉根を寄せて訝しそうな顔をした。夕歌はあの二人はな、と続ける。

「先生と生徒の関係だったんだ、荒神は村上の講義受けてたらしい」

「え?」

 綺莉は明らかに驚いた顔をする。初耳なのだろう。

「村上は高校の教師なんかやりたくなかったんだとよ。どっかの大学クビになって、別の大学で荒神に教えてたらしいけど結局そこもやめて、ここの教師やってるってわけだ」

 クビになった経緯については知らないのか、彼は触れなかった。でも夕歌が事情通っぽいのは結構意外だった。それは綺莉も同じだったようでちょっと複雑な顔をしている。

「詳しいな」

 綺莉が言うと夕歌は鼻を鳴らした。

「人の弱みを集めるのが趣味なもんで」

 彼の印象からして、らしいといえばらしい。綺莉も呆れたようでちょっと沈黙があった。葵は場つなぎが必要な今を好機と思い、勇気を出して問いかける。

「ねえ、篝先輩。M歴C部ってなんの略なの?」

「先輩とか言うな、気色悪い。綺莉と呼べ」

 綺莉はそう言って黙る。答えたくないようだ。夕歌は小意地の悪そうな顔をしてどうせ、と前置いた。

「MythologyのM、CultureのCとかじゃないのか」

「え」

 思わず声に出た。びっくりした顔の葵を見て夕歌はああ、と前置いた。

「こいつらが部活申請の件で村上とバトってるのはもう学校名物みたいなもんなんだよ。活動内容は神話学と文化の研究、それに関する謎の解明だっけ?」

 馬鹿らしいと続けないところを見ると昨日よりは刺を引っ込めてきたようだ。意外だと思った。

 綺莉は溜息を着く。そして言った。

「その通りだ。mythologyと歴史とCultureだ」

「なんで歴だけ日本語なの?」

「響きが嫌だった」

 言われて考えてみる。MHC、別になんてことはない。よく飲み込めないという顔をしていたら彼女はわざわざ教えてくれた。夕歌に推測されるのが嫌だったのかもしれない。

「Historyって響きが嫌いなんだよ」

「あだ名がヒステリータンスだったからなー、この女」

 黙れ墓守、と牽制が入って室内に再び沈黙の帳が降りる。意外に付き合いは長そうだったがそれならなぜ彼がこの学校だと知らなかったのだろうか。今辺は気難しそうなのでなんとなく問いかけにくい。思っていたら綺莉が立ち上がって冷蔵庫の前に立った。ビーカーを手にしている。

「最初は神歴文化研と名乗っていたんだ」

 今よりよっぽど分かりやすい呼称だ。そう思っていたら、綺莉はちょっと不愉快げに眉根を顰めてこちらを向いた。両手にビーカー。中身は黄色っぽい液体だ。お茶を入れてくれたらしい。恐縮である。

「所謂中二病患者と宗教家が湧いてしまった。まあ多希がいるからな。仕方ないのかもしれないが」

 その言い回しはなんだか引っかかった。彼女が美人だから軽薄な人間が集まりやすいのかと思ったがそうではなさそうだ。突っ込んで聞こうかと迷っているうちに又引き戸がスライドした。

 目を向けると多希とさゆりが入ってくるところだった。

「ごめんなさいね、遅くなって」

 多希は言いながらさゆりに合図する。さゆりは肩にかけていた布のバックの中からクリアファイルを取り出した。天、と大書されている。さゆりはクリアファイルを裏返した。裏…否、本来なら手紙の文面が書かれたこちらが表だ。

 さゆりの記憶の通り、男性のものと思われる筆跡だった。力強い、癖のある字が並んでいる。一番上の行に、”どうしても困った時”と表題のようなものが書かれていた。やはり、彼女にこの手紙を渡した人物は父親自身か、その知人だったのだろう。わざわざ手渡ししているのだし。

 最初数行は空白だった。そして唐突にメモ書きされていた内容同じ卒業アルバム、なんて内容が並んでいる。ただし…。メモ冒頭の卒業アルバムよりも前に一文字ある。

「例…」

 もしかしてこれは例題、ということか。4行の下に似たような文字列、その下にはカッコつきのイロハ順の文字と問題らしき単語が並んでいる。三段落に分けられた設問の数々の内、一段落目は例題として、二つは相互関係があるのだろうか。それともなにか二つの事柄を伝えようとしているのだろうか。

 席についていた男二人の後ろから身を乗り出して全員がその紙を見つめる。ところどころ滲んだようになっていたが判読は充分可能だった。


卒業アルバム 19(イ)(ロ)年


Pハ


(ニ,ホ)


 ・(イ)=(a)+(a)+(ニ)


  (a)次:雲海


  (a)原:あけはなつや満山のみどり


 ・レンガ通り 4-11 Life isn’t always what one likes (ロ)


 ・(b)国見山 (ハ)=(b)-(ロ)


 ・(ニ)=真道山 桜/連なる平和の鳥


 ・黒い血手形 茶屋 (ホ)F


○天岩戸・太陽の象徴・御神体・血手形の禿


○ミ・ヒジ・オウゴン・エバ


○5月 高松山 火


○少年易老難成


「これ、明らかに問題だよね」

 多希はクエスチョンの方ねと言い足しながら指先で上から下までさらっとなぞる。そうだね、と間延びした声でさゆりが応じた。

「テストみたい」

 ちょっと間を置いてから、顔を上げた綺莉が言う。

「クイズ?」

 葵は曖昧に頷く。多分、クイズとかパズルとかその類のようだ。

「渡された時何か言ってなかった?」

 多希がちょっと戸惑ったようにさゆりを見る。さゆりはうーん、と暫く目を瞑って唸っていたが結局首を横に振った。

「ごめんね、あんまり覚えてないんだ」

 葵は全員を見回す。今まで黙っていた夕歌と目が合う。彼は人差し指を伸ばして残りを組んでそれを顎に当てている。そのまま何度か突くような動作をしていた。考える時の癖なのかもしれない。でも、拳銃自殺みたいでなんとなく嫌だった。

 夕歌はすぐにその動きを止める。そして全員を見回した。

「なんでもいい。解けば判るだろ」

 それは確かにそのとおりだ。多希がすぐに身を翻し、傍にあった棚からわら半紙を一枚引っ張り出してきた。  綺莉が鞄の横のポケットからボールペンを出す。多希は綺莉にペンを渡して言った。

「すぐに判る設問は解いていきましょう」

 夕歌が一問目"(イ)=(a)+(a)+(ニ)"の、二つの(a)を指す。

「三足す三、六…以上の数字だな」

 綺莉は黙って三次、三原と書き込み+(ニ)とメモした。

「さんつぎ?」

「ああ、一青瀬は都会から来たんだったな」

 綺莉は言いながらペンの後ろ側で設問のaの部分を指す。

「どちらも漢数字の三で地名が完成する。みよしとみはらと読む。三次は冬に雲海が見えることで有名だ」

 雲の海、か。ちょっと気になる。それにしても

「これ、二つ目は三原、なのか?これは句?」

 問いかけると夕歌はひどく苛立たしそうな顔をした。さゆりも彼の不機嫌が判っている様子だったが、葵の後に続く。

「私も、ご存知だったら教えて欲しいです…」

 癇癪を起こすか、と警戒したけれど、夕歌は唇を噛んで目を逸らした。少し間をおいて意外にも教えてくれた。ただし、

「種田山頭火。自分で調べろ」

一言だけだったが。

「れんがどおり…」

 多希は夕歌の様子を見て取って話しを引き戻す。二問目に移ろうという合図だった。

 "レンガ通り 4-11 Life isn’t always what one likes (ロ)"

 れんがどおりってなんだろう、という葵の表情に気付いたらしい綺莉がまたしても教えてくれる。

「呉の市街地はれんが敷のところがたくさんある。れんが敷の商店街もあって、そこをれんがどおりという」

 なるほど。市街は車で通過しただけだったから知らなかった。そもそも商店街か。駅の周辺の観光施設などを思い起こしながらそういえば、と思い当たる。歩道がれんがのところが確かにあった気がする。

「4-11というのがわからんな。英文はなんだろう」

 綺莉は言いながら指先を噛む。多希は姉の顔を見据えながら問いかけた。

「-7ってこと?」

 綺莉は首を横に振る。綺莉は口を開かず、突っ込みは夕歌からだった。

「その式だけでいいのなられんが通りなんて単語はいらない。英文もすぐに数字を吐き出せそうな中身じゃない。保留。次」

 夕歌の指先が三問目を指す。なんだかんだでいい奴なのかも、と改めて思う。一瞬、沈黙があった。

 問いは"(b)国見山 (ハ)=(b)-(ロ)"。少しおいて、綺莉が呟く。

「七、だな。七国見山」

 その名前なら見覚えがある。少し考えて、綺莉と初めて会った日のツーリングだったと思い出す。あの神社に辿り着く前、標識や地図で見た名前だ。

「あの島…上蒲刈島で、綺莉さん何してたんですか?」

 この質問は脱線だと判っては居たが、聞くチャンスを逃したくなかった。夕歌は何の話だ、と眉根を顰めていたが、残りの二人はなんとなく心当たりのありそうな顔をした。おや、と思う。当の綺莉は多希とさゆりを順に見て、口を開いた。

「同じ件だ。さゆりが男に会った場所を探してた」

 少し驚いた。目を丸くした葵に綺莉は少しバツが悪そうな顔をする。

「さゆりが何か思い出すのを待ってたんだ。邪魔をして悪かった」

 ということは上にはさゆりと、おそらく多希が居たのだろう。ちょっと動揺して早口になりながら、疑問を口にする。

「消えたのは?」

「…消えた?」

 綺莉は一瞬ポカン、と口を開けたが、すぐに理解したようで首を横に振った。

「隠れただけだよ。木の影に」

 得意なんだと言われてなんだか恥ずかしくなる。本気で怖かったが、まあ現実なんてそんなものか。少しがっかりしたが改めて考えると今のこの状況はなんというか、望んでいたもののような気がした。つまりは、求めていた刺激とでも言うのだろうか。さゆりには不謹慎で申し訳ない気がするけど。

 夕歌の指先がBPM200くらいでリズムを刻んでいる。葵は素直に謝って「これもれんが通りの問の答えが入っているから後回しだね」と取り繕った。

 夕歌に罵倒されるかと思ったが結局彼はそれをしない。思わず、

「怒らないの?」

 問いかけると、別に、と返された。葵は場を取りなすように次の設問を読む。

「ま、みち?しんどう?なんて読むんだろう。…山、桜、割る?かな?連なる平和の鳥」

 設問をなぞる。"真道山 桜/連なる平和の鳥"とあった。

「まみちやま?ってどこだ?」

 問いかけは綺莉から多希に。多希は黙って首を横にふる。

「じゃ…じゃあ連なる平和の鳥…」

 葵が問いかけると多希が小首を傾げる。

「平和の鳥なら鳩、よね」

 ずっと困ったように笑っていたさゆりが「えっと」と小さな声をあげる。

「これ、多分、鶴じゃないかな…千羽鶴」

 なるほど、数字に関していて、鳥でもある。確かに千羽鶴なら平和の鳥といえなくもない。到着した日に寄った平和公園にはたくさんの鶴が備えられていた。亡くなった少女の悲しい話も聞いた。

「あー」

 綺莉も得心がいったように声をあげる。そしてすかさず千羽鶴、とメモした。

「真道山がわからないとどうしようもないな、次」

 夕歌は言いながら次の設問に目をやる。そして、少し黙り込んだ。葵は訝しく思いながらも自らも目を走らせる。そして思わず漏らした。

「なんだこれ」

 身を乗り出した綺莉がちょっと驚いたように音読する。その単語はえらく物騒なものだ。

 "黒い血手形 茶屋 (ホ)F"…。

「黒い血?」

 つられたように身を乗り出した多希が妙に弾んだ声を出した。

「血手形!」

 顔が、輝いている。葵は思わず言葉を失う。夕歌も驚いたようで目を瞬かせていた。一方女二人はどちらかと言うとうんざり、と言った顔をしている。綺莉はといえばうっとり、とでも言うのだろうか、好きな男でも見つけたような顔になっていて思わずどぎまぎする。

 …否、おかしいだろう、普通に考えて。

「多希、性癖バレるぞ」

「もうバレちゃったんじゃないかなぁ」

 さゆりがねえ、と話しかけると、多希は目に見えて狼狽えた。わざとらしい咳払いなんかしていたが、夕歌の冷たい目線に観念したようだった。

「あの、ほら、幽霊とか楽しいじゃない…」

 全く意味がわからない。ぽかんとしていたら綺莉が冷めた一言をくれた。

「無類のオカルト好きなんだ、この女は」

 暫く、空気が凍った気がした。恥ずかしかったのだろう、多希の怒涛の言い訳が始まったが、えらく小さな声の上、はっきりと墓穴と判るようなマニアックな単語がひっきりなしに出てきてもはや言葉も無い。

 ここまで、完全無欠のクールビューティーと思っていた篝多希という人物像が音を立てて崩れていく。否、別にオカルト好きなのが欠点なのではない。それを恥じ、ちょっと往生際の悪い態度をとっているところがどうにもらしくなくて、思わず笑いそうになった。一生懸命我慢していたが、横の夕歌は全く悪びれもせずに爆笑を始めた。

 多希は子供っぽい顔でむくれている。恨みがましい顔で夕歌を睨む顔は見知った彼女より幼い感じがした。

「もう!いいでしょ!!これは私が調べます!…次!あまっ、あまのいわと!」

 噛んだ。

 夕歌の笑いが再点火される。多希は首まで真っ赤になって首を縮こませていた。笑ってしまうのも悪いので問題に目を向ける。

 ”天岩戸・太陽の象徴・御神体・血手形の禿”。

 天、岩、戸、の三字だけであまのいわとと読むのか。天岩戸といえば日本神話に出てくる、確か日食だとかなんだとか聞いた覚えがある。次のワードは太陽の象徴。日食って発想はあながちずれてはいないのかもしれない。でもその次の…御神体?最後は一気に飛躍する。血手形、という単語が又出てきた。多希の目が又輝いている。

(本当に怖いの好きなんだな…)

 葵は苦手だ。

「アマテラスならおまえらの母親だろ、なんかわからないのか」

 夕歌は嫌味ったらしくムナカタシスターズの呼称を口にする。綺莉の眉間にぐ、と皺が寄った。五月蝿い、と吐き捨てるように言った彼女はペンの先で血手形、の辺りをなぞる。

「これもホの問いを調べてからの方が良さそうだ。次次」

 誰も異論はない。次の問題を見て、さゆりが呟く。

「カタカナなのね」

 確かに。"ミ・ヒジ・オウゴン・エバ"全てカタカナで書かれている。2つ目がヒジ、肘?一つ目はでは身、だろうか。

「エバってなんだ?」

「イブ?」

 多希の目が輝いている。ホラーだけでなく聖書とかも好きなのか。

「ミ、とかヒジは聖書に出てくるのか?」

 夕歌に嫌味を言われて多希ががっかり、と言った顔をする。多希のせいなのか黄金という言葉には南米の黄金伝説を連想してしまう。エルドラド、だったか。

「この中で意味がイマイチ曖昧なのは最後のエバだけなのかな」

 葵は取り繕うように言う。夕歌が曖昧な唸り声を返してきた。

「後回し!次」

 綺莉が駄目だ、と手でバツを作る。次の設問に映るなり多希は髪の毛をくしゃくしゃと乱した。

「高松山ってどこよ」

「知るか」

 夕歌のイライラボルテージも大分上がってきている様子だ。葵は慌てて最後の問を指さした。

「これ、簡単だ」

 少年易老難成。よく見るとひどく物足りない。

「ああ、一字抜けてる漢字が答えか」

 夕歌の声に頷いた綺莉が、最後の設問を写しとった下に学、と書き入れる。

「全くわからんな」

 夕歌の一言が状況を指し示していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る