被害者の女子生徒による証言②

その日は、何時もと違っていました。何時もゴミが詰め込まれている筈の靴箱の扉の隙間から、虫の足の様なものが見えたのです。いえ、あれは確かに虫だったと思います。

困ったことに、私は虫という生き物が苦手なのです。できれば目にする事も避けたいと思う程度に嫌いなのです。

幸か不幸か自習の為に早く登校していたので、周囲には誰も見当たりませんでした。自分で処理しなければならない、と思いましたが、同時にちょっとした意地悪心が芽生えました。

私は、知りながらもずっと触れずにいた影から覗く彼…西野君の方を見ました。隠れると言っても所詮高校生ですから、そこにいるのは分かっていました。その時の西野君は驚いていた様に見えました。私が「西野君」と呼びかけると、彼は少し困ったような顔で、ゆっくりとこちらへ向かってきました。


西野君に片付けて貰おうと思ったのです。靴箱にゴミを入れたのは、おそらく…いえ、確実に、西野君でしょうから。虫に触れない私の代わりに、処理してもらおうと考えました。

私の前に立った西野君に、持参していたビニール袋を差し出し、靴箱のゴミを片付けてもらうよう言いました。彼は何も言わずに袋を受け取りました。私はその場を彼に任せて図書室へと向かいました。


始業時間が近づき教室へ向かうと、クラスの女子生徒が騒いでいるのが聞こえてきました。話の内容に耳を傾けると、靴箱の前にゴミと踏み潰された虫の死骸があり、それを目にした生徒が不気味がっている様でした。

私の靴箱に入っていたもので間違いないでしょう。西野君は、結局片付ける事なくその場を去った。それも虫を踏み潰したあとで。

その話を聞いて、西野君の目的は私の靴箱にゴミを入れる事ではなく、私にゴミを片付けさせることなのではないかと、そう思ったんです。

何故そう思ったのかは解りません。ただ、そうなのかも知れない、そう思いました。


その日までは、私は見て見ぬふりをしてきました。ゴミを片付けながら、彼の目的が何なのか、色々推測していました。だけど、その日、私は彼の存在を認めていた事を明かした…もう知らないふりは出来なくなったのです。

だから私は、彼との距離を縮める事で、彼の目的を知ることにしたんです。

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