被害者の女子生徒による証言①

初めは、ただのいたずらだったように思います。一回目の時と、それ以降では明らかな違いがありましたから。


高校に入学してひと月程経った頃、私の靴箱にゴミが入れられていました。私は人と余り話す方ではないので、クラスでは浮いていました。ですが、このような虐めを受ける程、嫌われてはいないと思っていました。

虐めの始まりに理由がないことも多いとは思いますが、お菓子の紙袋やジュースの紙パックなどでしたから、すぐそこにあるゴミ箱に入れることすら煩わしいと思った誰かが入れたのか、あるいはちょっとしたいたずら心だったのだと思います。

私の通う高校では、図書室が早くから開いており、私は毎朝早くに登校し図書室で勉強することを日課としていましたので、その光景を人に見られず処理できたのは幸いでした。もし、正義感が強い誰かが見ていたら、大事になっていたのでしょう。


そう、ですが、その日からだったのです。その日から、毎日私の靴箱にゴミが入れられるようになりました。

でも、初めてゴミを入れられたあの日とは別の人間がやっているのだろうという事は、直ぐに気が付きました。最初に入れられたゴミは、空になったお菓子の袋等でしたが、翌日以降に入れられたそれ等は、野菜の入っていたであろうパックや洗剤の空き容器など全く違うものでしたから。

きっと、誰かが家庭から持ってきて、わざわざ入れているのだろうと思いました。その時は、なぜこんな事をするのか全く解りませんでした。私が虐めの標的になった可能性も少しはよぎりましたが、直ぐにそれは違うのだろうと思いました。

私が毎朝靴箱のゴミを片付ける間、遠くの、影の方から向けられている視線に気が付きましたから。そして、それが同じクラスの西野君だという事にも気が付きました。

西野君とは、それまで、会話らしい会話をした事は無かったと思います。多分、一度も話したことはなかったはずです。そのような相手が何故、このような事をするのか、とても気になりました。


上履きは持ち帰るようにすれば汚れず済みますし、ゴミは片付ければいい…きっと私自身、何処かおかしいのだと思います。起こっている事柄を解決するより、何故そうするのか、それを知りたくなりました。

だから、本人にやめるように言うことも、教師たちに訴えることもしませんでした。その代わり、ゴミを手早くまとめられるよう、ビニール袋を毎朝持って登校するようになりました。


最初は、先程も挙げたような、野菜のパックだとか洗剤の空き容器などが入っていました。ですが、段々と生ゴミや枯れた草、泥といった…そう、より汚いものが入れられるようになりました。それでも、私はただ淡々とそれらを持参したビニール袋に入れ、ゴミ箱に捨てる事を繰り返していました。

確かに手は汚れてしまいますが、洗えば済むことです。それよりも、何故西野君が私の靴箱にゴミを入れるのかが知りたかったのです。ゴミを片付けながら、毎日考えていました。私の中でそれが日課となっていたのです。


ゴミが入れられるようになってから、五ヶ月程経った頃だったと思います。

秋になって、涼しくなってきた頃でした。その日は、いつもと違ったのです。


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