第120話 柔らかな…

 バイト先のラブホの前にいた。

 休みのはずなのに…

 ホテルの前に黒い軽自動車が停まっている。

 見覚えあるナンバー。


 昔、不倫関係にあった女性の車だ。

 助手席のドアが開いた。

 白いワンピースを着た女性が降りる。

 風俗嬢をしている彼女だった。

 運転席から、不倫していた女性が降りる。


 2人は交差点に向かって歩いて行った。

 面識などあるはずもない2人の女性。

 私が愛した2人の女性。

 後を追って私も交差点へ歩いた。

 信号待ちをしている彼女が前屈みになると短いスカートから黒いストッキングに包まれた下着が見える。

 私は慌てて、スカートを抑える。

「見えてるよ」

 彼女は気にする様子も無く子供のように笑いながら、信号の向こうへ消えていく。

 不倫の女性は信号が変わっても動こうとしない。

 私の方へ振り返りキスをする。


 懐かしいような柔らかな唇の感触。


 それは…懐かしいようで…恐ろしくて…。


 私は白昼の交差点で眩暈がするような感覚で唇を重ねる。


 とても怖くて…消え入りそうな夏の日差しが私を消してしまいそうで…。


 消えたい…このまま消えたい…そればかり願っていた。

 こうしていれば、それが叶いそうで…。


 それでも悲しくて…。

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