第115話 金

 銀行の前にいた。

 バンタイプの車の最後尾に座っていた。

 前の方には親戚が座っている、母方の親戚ばかりのようだ。

 私は開いたままのスライドドアから隣の軽自動車を見ていた。


 軽自動車から老婆が降りてきた。

 汚い服装、汚い鞄、だが私は見た。

 汚い鞄には大量のお金が詰め込まれている。

 帯の札束ではない。

 紙幣を無造作に詰め込んである感じだ。

 老婆は鞄の中のお金を3掴みほどスーツの男へ渡した。

 預けて来いと言っているように思えた。

 大きな鞄には、それでも2千万くらいは残っていそうだ。

 老婆は再び鞄から一掴み紙幣を掴み、私に差し出した。

「今朝、玄関に置いてあったから半分、アンタにあげるわ」

 私は無言で受け取り、紙幣をジャケットで包んで膝の上に置いた。


 親戚が私を睨む。


 私は知っている。

 こいつ等は、また私から何もかも取り上げようとしている。

 他人に嫉妬しかしない連中。


 私が心の底から軽蔑し、憎んでいる連中。

 私はコイツラのせいで…。

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