第114話 店

 山小屋のような店に務めていた。

 まだ出来たばかりのようでオーナーは若く売れない芸術家のようだ。


 隣接した小屋で捜索活動をしながら、店舗を営業している。

 客が来ないので、私は小屋の方へ行って彼と話していた。

 彼は、以前会った別の芸術家から影響を受けたようで、一心不乱にナニカを造っている。

 どうも造形作家のようだ。

 私には理解できないが、あきらかに、彼はその芸術家の影響を受けているということだけは理解できた。


 店の前に車が停まった。

 私は店舗へ戻る。

 途中で犬の糞が落ちていた。

 どうも販売している物はペット用品らしい。

 レジに入ると

「シロをくれ」

 私にはシロが何なのか解らない。

 レジの脇に、白く丸いセロファンのようなものが数枚入ったビニール袋が1枚置いてある。

(これかな?)

 と思い客に差し出すが値段が解らない。

「それと…ウサギのエサを7枚くれ」

(ウサギのエサ?)

「ウチのウサギはソレしは食べない」

 客が指さす先、戸棚に透明な長方形のビニールの切れ端が置いてある。

(これがエサ?)

 疑問に思いながらも、私は軽量計りを探す。

 オーナーが入ってきた。

「ソレ200gね」

(やはりグラム売りなのか…)

「あっ、スティック7本入れといて」

 客が当たり前のように言う。

(スティック?)

 私はビニール袋に細いスティックを入れる、全部同じサイズのものは無く、バラバラの長さ、細さ…

(何に使うのだろう?)

 客に差し出すと、

「あっ、腐ると悪いから穴を空けてくれ」

 私はパンチで穴を空ける。

「大分、客が入るようになってきたね」

 客が私に話しかける。

 店を見ると、10人ほど客が入っている。

「キミは何時くらいにココにいるの?」

「あぁ大体、この時間帯ならいますよ」

「だから何時くらい?」


 自分でも何を売る店なのか解らない。

 置いてある商品も何が何だか解らない。

 値段も、ソレが何のかも解らない。


 そもそも私は何時から何時まで務めているのかすら解らない。


 この山小屋には、私が知っているモノなど何もない。

 とてつもない不安に私は吐き気に襲われていた。

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