第107話 もてあます

 昔、務めていた店の駐車場へ車を停めようとしていた。

 平衡感覚が上手く働いていないようで、なかなか白線の中に車を停車できない。

 壊れかけた塀に何度か車のバンパーを当てながら、車を停めた。

 ドアを開けると、むせ返るような暑さ、凸凹のアスファルトからムワッとする嫌な臭いが立ち込め、私は、ひざまずき前向きに倒れ込んだ。

 目の前には渇きかけた小さな水たまり。

 渇いた泥が掌に付いて不快だったが立ち上がれない。

 店に商品が運ばれていく。

「店長?」

 私を呼ぶ声がする。

 無様な姿を見られたくなかった。

「違う…私は桜雪じゃない」

「でも…店長じゃないですか」


 商品を運んできた若いドライバーが私に近づいてきた。

 ドライバーは私の車に乗り込んだ。

「オマエには似合わないよ」

 私はドライバーを車から引きずり出して、膝頭を踵で蹴りつけた。

 倒れたドライバーの頭を何度か踏みつけ、駐車場に転がっている石大きな石でドライバーの頭に叩きつけた。

 ドライバーの死体を田んぼに投げ捨てると、汚れたランニングシャツにハーフパンツ姿の太った若者が鉄塔の上から私を指さし笑っている。

 不愉快だ、そう思った私は鉄塔に登り、若者を下へ落とした。

 砂利道で一度バウンドして若者は田んぼへ落ちた。

 私は、砂利道から、もがく若者へ大きな石をぶつけ続けた。

 身体に当たる度に、若者の身体は、ひしゃげるように曲がる。

 若者は起き上がろうとするが、身体は斜めに刺さっているようで足が抜けない。

 上半身が後方へクタッと傾くと血だらけの顔は目を見開いたまま空を見上げる様に死んでいた。

 若者の視線を先を見ると、鉄塔と同じ高さくらいの黄色い首の無い怪獣が立っている。


 アレは殺せるのかな?


 持て余していた…先ほどまでの重い身体が嘘のように思い通りに動く…ただ殺したい。

 身体が動く限り。

 でも知っていた、きっとまた、身体は動かなくなる。

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