第50話 無数のトイレ

 トイレにいる。

 無数の和式便器が並ぶ野球場くらいの広さのあるトイレ。

 仕切りなんて無いに等しく、汚れた便器が並ぶ。


 私は用を足したいのだが、そのトイレを使う気にならない。

 汚水がしみ込んで朽ちた木の扉や壁、触る事、いやこの場にいることすら不快だ。


 まばらだが、トイレには人が行き交う、あの人達は、トイレを利用しているのだろうか?


 2つほど手前の扉から老人が出てきた。

 黄ばんだ歯、しわだらけの顔、手、そのしわには垢が溜まっていそうで、このトイレに相応しい老人。

「ココを使え」

 そう言えた気にニタニタと笑いながらコチラを見ている。


 トイレに入ると、とても狭く、しゃがむことすら出来ない。

 それどころかズボンを下げることすらままならない狭さ。


 私は狭いトイレで四苦八苦したまま、出ることすらできない。

 トイレの外には無数の老人が声を殺して笑っているのだ。

 壁の隙間から、ドアの穴から私を覗き見ては笑っているのだ。

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