第47話 届け物

 刀を預かっていた。

 誰かに渡さねばならないようだ。

 ボロボロの使い古された刀。


 大した価値もないのだろう、それどころか抜けるか否かも怪しいくらい朽ちた日本刀。

 山道を進み、山を越えると、眼下に山村が見える。

 どうやらその村に行かねばならないようだ。

 ボロボロの石碑?もしくは地蔵の脇で腰を下ろす。

 青臭い草の匂い、汗ばむような暑さ、真夏であるらしい。

 山道を下る、その途中の寺に立ち寄る。

 小奇麗に手入れされた庭、山寺とは思えない公家でも住んでそうな佇まい。

 立派な門は開け放たれ、中から住職が顔をだす。

「刀を運んでくれたのだね」と手を差し出してくる。

 私は渡すのを拒んだ。

 この住職に渡してはならない。

 なぜか私はそう感じた。

 刀を抱えて走り出した、村まで…。

 ワラワラと僧兵が襲ってくる。

 刀を抜かねば殺される。

 そう思いながらも、私は刀を抜くことを躊躇している。

 手放してしまいたい、そう思いながらも私は抜けない刀を抱いて、ただ走って逃げる。


 きっと大事な物なのだろう…傍目には朽ちた刀であっても、私にはきっと…大切なナニカなのだ。


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